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■現代語訳『枕草子』
  ~清少納言の『枕草子』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳
更新日2015/02/26



枕草子  第一回


その一  春はあけぼの

 

 春はあけぼの、少しづつ、白みをまして明けていく、その夜明けの風情の素敵さ。山の稜線も、ほんの少し明るくなって、紫色を帯びた雲が、細くたなびく。

 夏は夜。もちろん月が光っていればなおのこと。たとえ月がなくて、暗い闇夜であっても、ホタルがたくさん飛び交うようすは格別。そうではなくて、ホタルがひとつふたつと、ほんのりと光をたたえて飛んでいたりするのも、とってもきれい。雨が降っても、それはそれでわるくない。

 秋は夕暮れ。山に夕陽が落ちていき、なんだか山が、とても近くに感じられるなかを、カラスが寝床へ行こうとして、三羽、四羽、あるいは二羽、三羽と、急いで飛んでいく、そんなようすにも心をひかれ、ましてや夕暮れの空の高みを、雁が連なって渡っていくのが小さく見えたりするのは、ほんとうに素敵。陽がすっかり暮れて、ふと、風の音や虫の音が聞こえてきたりなどすれば、もう、言葉に表せないほど、うれしく愛おしい。

 冬は朝の早くがいい。空から雪が降ってくるようすの素晴らしさはもちろんだけれど、地面に霜が白く光っているのもよくて、また、ひときわ寒い朝に、いそいで火をおこしたりなどして、いそいそと炭を部屋へと運ぶのも、いかにも冬らしくて、とってもいい。昼になって、寒さも和らいでくる頃になると、そんな部屋の炭も、いつのまにか白い灰になってしまって、ちっとも面白くない。

 

 

※文中の色文字清少納言が用いた用語をそのまま用いています。

 

 

 

 

 

 

 

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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詩人、ヴィジョンアーキテクト。言葉、視覚芸術、建築、音楽の、四つの表現空間を舞台に、多彩で複合的なクリエイティヴ・表現活動を自在 に繰り広げる現代のルネサンスマン。著書として『アトランティス・ ロック大陸』『鏡の向こうのつづれ織り』『空間構想事始』『ドレの神 曲』など。スペースワークスとして『東京銀座資生堂ビル』『LA ZONA Kawakasi Plaza』『レストランikra』などがある。
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