のらり:悪循環が続いてしまいますね。
上田 :“お受験”もそうだよね。本当に子供のためを考えて受験させているのか、ステキなママとしての私を求めて受験させているのか。その自分の「ワガママ」が、どこまで人の目に拘束された「ワガママ」かっていうのを見切ることが必要なんだよね。
 もっと言うと“お受験”なんか失敗したほうがいいんだ(笑)。“お受験”に成功しちゃったら、ずっとその図式でいっちゃうよ。

のらり:そのまま進むと、どうなっていくんですかね?
上田 :勝ち進んで行くんだけど、最終的に「自分の人生じゃない」って気がついてわけがわからなくなってしまう。ある程度のエリートでしょうが、やがてシステムに負けたことに気づいて愕然としてしまう。そしてへんな宗教にすがってサリンをまいてしまったっていうのがオウム事件でしょ。“お受験”に成功し勝ってはいくのだが、主体的に自分がやりたいと思っていたことではなく、ただ他者の期待感を励みに勝っていってしまった。結果として、どんどんシステムに組み込まれ、自分の人生自体は負けという状態を積み重ねているわけです。



のらり:そのことに気がついたとき、どんなことが起こってくるんでしょう?
上田 :世俗的にうまくいかなかったり、挫折してしまったときに、そのことに気づく。そこでさあもう一回、今まで自分が勝ちと思っていたほうに自分を駆り立てていくのか、それとも別方向を向くのかが問われるわけです。

のらり:挫折によって、一度立ち止まって自分を問い直すことができる!
上田 :本源的なところが問われちゃうわけで、自分が勝てなくなった、自分が負けた、その挫折感を体感したときにこそ輝きの本源があるのです。そのとき他者の期待に応えるだけだったロボットから、輝いたり落ち込んだりする生身の私になる。

のらり:人生の至るところで挫折が待ち構えていますからね。
上田 :お受験失敗、いい会社に入れない、人間関係のもつれ、失恋・・・いろいろ挫折はあると思う。あと、病気とかもあるよね。僕なんかはそうでしたよ。ノイローゼなってしまって、「立ち上がれない」って感じ。カウンセラーにも通って、このままじゃどうしようもならねえなって時期があった。


『覚醒のネットワーク』
カタツムリ社


のらり:そこからどうやって立ち上がったんですか?
上田 :インドから帰ってきた友人がやたらと元気がいいので、僕も行ってみたんですよ。そしたらインド人って元気なんだよ。日本と比べると貧しいし街も汚ないんだけど、なーんかいわく言いがたいパワーがみなぎっていて、その中にいたら僕もどんどん元気になっていった。いい大学とか、いい会社とか、立派な肩書きを至高とするのとは違うオルタナティブがあるんだって気がついたんだね。どんどん元気をなくしていったのは、単にまわりがそれを勝ちというものを追求していたからではないか、本当に自分が求めていたものは何だったのかって問い直したんですよ。

のらり:挫折を乗り越えたあと、人は輝く。その輝きをもっと増す哲学はありますか?
上田 :捨てていくことですね。無限拡張主義っていうのはウソで、一点豪華主義だと思います。問題は、どこで手を抜くか、何を犠牲にするかですよ。どっかで手を抜いていかなければ自分の満足するものは捻出できない。

のらり:たとえば、どういうことがありますか?
上田 :他の人に「おまえボロ屋に住んでるな」って言われても、「年一回海外旅行したい、それもちょっと長いのにしたいんだよ」っていう考え方ですね。年一回海外旅行行ければ楽しいから、別にボロ屋だってかまわない。家のために二千万円のローン組んじゃったら海外旅行できないもんって。筋通ってるでしょ?



のらり:なるほど、右肩あがりじゃなくても、その考え方ならオーケーですね
上田 :「釣りバカ日誌」のハマちゃんがいいんです。釣りさえやっていれば、給料上がらなくても、昇進しなくても、ニコニコ幸せでいられる。会社とかに過剰適応するのでなく、自分の中で多様性を確保していればいいのです。

のらり:何もかも手に入れようっていうのが、そもそも無理があるんですよね。
上田 :どっかをダウンサイズしないと手に入らない。釣りさえやっていれば幸せで、他のところは手を抜いてもかまわないっていうのがいいんです。ところが、なんかみんな、後ろ指さされることを恐れている。学歴がよくて、住んでいる家も立派で、ときどきどっかに高くてうまいものを食いに行って、奥さんはめちゃくちゃ美人で、さらに愛人もいい女で(笑)、無理だよ、そんなの無理無理! 右肩上がりで、パイがまだいっぱいあれば、すべてが充足するって幻想にまだとらわれている。どっかを捨てる、捨てなければ捻出できないんです。


『日本型システムの終焉』
法藏館


のらり:ひと昔前までは、いろんな部分を犠牲にしていましたよね。
上田 :貧乏な時代は何かを犠牲にするのは当たり前で、それでやっと教育費を捻出したとか、何かを我慢してやっと夏休みに旅行にいくとかしてた。だからこそ、手に入れたものに関しては幸せ感っていうのがあった。それが当たり前の世界じゃないですか。

のらり:我慢することすら、忘れてしまったんですかね?
上田 :それは、あるでしょうね。ただ我慢の尊さが失われたって言う人たちは「何でも我慢、我慢。我慢がいいんだ!」って言うんだけど、僕は何か目的があってはじめて我慢するんだと思うんだ。自分が輝くことのために我慢するのであって、抑圧的な我慢を強要しては機能不全になってしまう。

のらり:我慢あってこその輝きだと・・・。
上田 :何も我慢しないで、みんなニコニコして、ハイハイ楽しいことばかりでいきますよっていうのじゃなくて、何かむちゃくちゃ楽しいことを得るために我慢が必要になってくるのだと思う。我慢している部分に関しては、堂々と「ここ我慢しているから」って言えばいいんですよ。人間として当たり前で世界の人が誰でもやっていることですよ。その人生哲学をもう一回復権させないと!
 


のらり:本当にそうですよね。上田さんに声を大にしておっしゃっていただけるとうれしいです。
上田 :これからは僕たちの目線を、本当の豊かさ、人間の成長、社会の成熟というほうに向けて行く時代だと思っています。今は、医療だけじゃなくて、本当の意味でのクオリティオブライフを実現する社会に移行する大チャンスです。このチャンスを逃しちゃいけない。言うべきことは、その一点のみじゃないかと思う。これからも、そういうことも書き語っていきたいと思っています。
のらり:楽しみにしています! ありがとうございました。
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