のらりインタビュー



大脳生理学、生殖生理学の大先生のご登場です!
ヒトの行動と脳の関係をテーマに、執筆・講演とパワフルにご活躍の大島清さんがその人。
うかがったのは、鎌倉駅前の喧騒を抜けて梶原の丘を登りつめたところにある大島さんの“終の棲家”。緑の森に囲まれた鎌倉の山の中で、大島流“生の楽しみ方”を聞きました。

医学博士。1927年広島県生まれ。東京大学医学部卒業後、ワシントン州立大学へ留学。京都大学霊長類研究所教授、愛知工業大学教授を経て、現在同大学客員教授、京都大学名誉教授。脳に関する幅広い講演や執筆活動でパワフルに活躍中。著書に『触れることが脳を育む、人を育む』(求龍堂)、『ふまじめな脳 人生を気楽に生きるヒント』(PHP研究所)、『「生きる力」の強い人 弱い人』(新講社)ほか多数。
(以下敬称略)



のらり:いやー、それにしても素晴らしいところですね。うらましいです!
大島 :そうだろ。まわりを全部森に囲まれて、山を降りれば海がある。5年前に一目ぼれして即座に永住を決めた、つまり終の棲家ってやつだ。


窓辺のエサ場には、リスが訪れる
のらり:海と山に囲まれているところは、ご出身地である呉に共通するところがあるようですね。
大島 :よくわかったね、その通り!(笑)。地形がよく似ているんだよ。やはり原風景に戻ったというのかな。それが一番落ち着くんだろう。歩くのにももってこいで、30分くらい山を降りると海に出る。そこから由比ガ浜、稲村ガ崎、七里ガ浜と、2時間以上かなりの速さで歩く。始めて間もない頃は、足が痛くなって、パテックスなどの貼り薬のお世話になっていたが、ある人から“真向法”という4つの体操からなるストレッチを教わり、完全にマスターしたわけじゃないけど、それをはじめてから循環がよくなったのか、貼り薬も不要になった。これも大いに皆さんにすすめたい!

のらり:歩くのは脳を刺激する効果があると聞きましたが・・・
大島 :「運動しなさい」「趣味を持ちなさい」「本を読みなさい」っていうのが僕のおはこ、3原則なんだ。しかし運動するといっても、体で動く場所というのは、実はあご、手、足の3ヵ所しかない。脳の上の方に体性感覚野(たいせいかんかくや)という部位があって、そこが触覚の刺激が届く場所になっているんだが、運動して脳に行く情報は、手から25%、足から25%、あごから50%なんだ。だから歩くことによる足の運動で、脳に刺激を送るのは非常に良い。ただペタペタ歩いても脳には情報が行かないので、つま先に体重をかけて速く歩くのがいい。



のらり:ここ鎌倉はアップダウンがあって、木々も多くて空気もいい。歩くには、うってつけですね。
大島 :時には潮騒を聞きながら歩けるし、いいですよ。今までいろいろ運動をしてきたが、ウォーキング中心にしてからはとても快調。ジョギングではアスファルトで膝を痛めたし、マウンテンバイクでは、首を曲げて乗るから椎骨動脈を圧迫してしまい神経外科のお世話にまでなった。この椎骨動脈っていうのは、バランスをコントロールする小脳とか他の脳にいく脈だから、そこが圧迫されて血液が少なくなると全体の血圧があがっていくんだ。ある朝、突然めまいがして、立ち上がれなくなってしまってね、すぐ病院に連れて行かれた。脳の研究を長いことやってきたけど、この時、初めて自分のレントゲンを撮られたよ。

のらり:ご自身の頭蓋骨を見られたのは、初めて?
大島 :初めて見た。やっぱり人間だな、ゴリラじゃない、ホモサピエンスだった(笑)。で、頭蓋骨の写真を見て、年齢的にマウンテンバイクは無理、やめようと思ったわけ。僕は潔くて、ダメと分かったら絶対やめる。女だってダメだと思ったらさっとあきらめる(笑)。とにかくウォーキングに切り替えてからは、いくらやってもどこも痛くならないし、歩きの良さ、パワーを改めて見直しているところですよ。


  


のらり:先ほど、「足」以外に「あご」の運動も大事だとおっしゃいましたが。
大島 :今の子供や青年たちは人差し指はよく使う。ゲーム、パソコン、携帯電話ばかりに夢中だからね。しかしあごは使わないねぇ。食べるということは、生きていくための大事な本能のひとつなんだ。コンビニでスナックやら弁当を買って清涼飲料水で流し込む、そんなのは食とはいえない。四季折々の食べ物を取り入れ、家族や友人とコミュニケーションの時間を持ちながら、じっくり咀嚼して味わう。咀嚼によって脳へ刺激を送る、また旬の食材を食卓にあげることで、匂い、味、食感などの感覚を通じて脳への刺激を増やす。そんな食が理想的なんだ。あごから脳に情報が送られないような、咀嚼しないですむような食習慣が続けば、人間はバカになる!

のらり:咀嚼すると免疫力も高くなるそうですね。
大島 :咀嚼は、噛むことで脳への刺激を与えるだけではなく、噛み砕くときに唾も出る。唾液には、免疫細胞が含まれるので、風邪をひきにくくなったり、病気にもかかりにくくなるというオマケもつくんだ。

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