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■鏡花水月 ~ 私の心をつくっていることなど

更新日2020/03/26



【緊急特番】

新型コロナウイルスをめぐる妄想

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絵 エステバン・サンツ


新型コロナウイルスが地球上で猛威を振るっている。国家と国家が覇権を争って戦争をしあった近代とは社会の構造が全く異なる次元に入った今や、人類にとっての安全保障上のメインターゲットは、実体経済から乖離してしまった「金融資本」や、今や無法地帯化した「インターネット」、そしてウイルスによる「感染症」、付け加えれば「エレルギー生産」と「食糧」と「ゴミ」、「地球規模の自然環境」や「大規模災害」、「遺伝子組み換え」などであって、どの国も時代遅れの戦争のための武器や軍隊などに、なけなしのお金を浪費している場合では無い。

とりわけ「感染症」は相手が変異を繰り返しながら数十億年も生き延びてきた猛者との戦いであるだけに、たかだか二十万年程度しか命を繋いできていない人類にとっては極めて分が悪い。

金融資本もインターネットもゴミや環境破壊の問題も、ほんの最近になって人間が作り出したものでしかないので、もし価値観を一変させて人類が真面目に取り組めば解決することは大して難しいことでは無い。しかし地球上を大量の人が複雑に行き交う現代にあっては、自在に変異し続ける神出鬼没のウイルスとの戦いは困難を極める。相手が何しろ、文字通り得体が知れない。

 

現に今回の新型コロナウイルスでは不可解なことが続出している。例えば2020年3月24日現在、それぞれの国の発表を信じれば、死者の数はイタリアが6,077人、中国が3,277人、スペインが2,311人、イランが1,812人、フランスが860人、アメリカ合衆国が560人、イギリス335人、ドイツ143人、韓国120人で合計15,395人となっている。ちなみに感染で先行した日本は現時点で42人。数字だけを見ればホントかと目を疑う。

オリンピックと株価が命とばかりに優先順位の設定で本末転倒を繰り返し、論理性や具体性や戦略性や人間性や科学性を欠いた支離滅裂で場当たり的な対応を後手後手で行ってきている日本政府下の感染者数は1,138人。先に挙げた国々の感染者はイタリアが63,927人、中国が81,172人、スペインが35,136人、イランが23,049人、フランスが19,856人、アメリカ合衆国が46,337人、イギリス6,726人、ドイツ32,024人、韓国9,037人で、合計感染者は日本を除いて317,264人となっている。ここでも先にスタートした日本がなぜか最後尾を走っていて、数字上は全く奇怪な現象が起きている。どうしてなのか?

ちなみに感染者の中の死亡者の率を見れば、高い順にイタリア9,5%、イラン7,9%、スペイン6.6%、イギリス5%、フランス4.3%、中国4%、アメリカ1.2%、韓国1.2%、ドイツ0.4%、で、日本は3.7%、日本以外の平均死亡率は4.9%となっている。平均から見ればイタリア、イラン、スペインが極めて高く、中国と韓国が低く、ドイツの死亡率が突出して低い。ドイツの死亡率の低さはホームドクターなどの医療体制や対策や治世者の姿勢や方針によって人類がウイルスと十分に戦えることを示していて希望が持てる。
日本はイタリアやスペインより低いが韓国より高く、これは重傷者しか検査をしないという、とんでもない方針によるものだと思われる。だとしたらもっと高くてもおかしくはないのだが、それにしては、亡くなった方には申し訳ないがイタリアやスペインに比べて死亡率がはるかに低い。どうしてなのか? どこにも負けないほどの高齢化社会なのに……

これについては巷でいろんなことが噂されている、例えばラテン系の人々は友人や家族と会ったり別れたりするたびにキスをしたりハグをしたりするのに対して、日本人は握手さえせず、せいぜい離れてお辞儀をするだけだというのがあるが、ただ日本人は、とりわけ人口の密集地帯である大都会では、密室空間である通勤電車の中ではお辞儀もままならないばかりか、顔と顔がくっつくほどに体を寄せ合って、しかもその濃厚接触の状態が長時間続く。ヨーロッパやアメリカのように休業や通勤禁止命令が出されているわけではないので通勤電車は、実はあんまり効果がないと言われているマスクをした人を大勢乗せていつものように走っている。

イタリアやスペインより湿度が高いからだという人もいるが、日本はようやく春が来たばかりで、これまでは乾燥した冬の季節だった。また日本人は家に上がるときに靴を脱ぐし、もともと綺麗好きだからという人もいる。確かにこれは多少は関係があるかもしれない。新型コロナウイルスの生存期間は意外に長いとされているので、埃や靴の裏についたウイルスが難なく寝室まで侵入するという事態はかなり阻止できているかもしれない。

がしかし、それで家にじっとしているというのならともかく、いち早くテレワークとやらを決めた広告代理店の本社の電気が夜になっても煌々と点いているところを見れば、たくさんの人が今なお電車に乗って会社に来て長々と会議なんかをやったりしているかもしれない。

はたまた、ラテン系はおしゃべりだし家族や友人で集まったりするのが好きだし、そうなるとみなが大きな声でワイワイとおしゃべりするから蔓延したんだという人もいる。確かに日本では若者と老人が接触する機会はイタリアやスペインに比べれば少ない。がしかし、普段は無口でも居酒屋などで一旦酒が入ってしまえば、イタリヤ人なんかよりはるかに大きな声を発しまくる人もいる。

それにヨーロッパの都市がひっそりと静まり返っているというのに、桜が咲いたとなれば、なんとか川のほとりや公園に人が溢れる。当然、桜とは切ってもきれない飲み食いもするし、休校になって孫の面倒を見なくてはいけなくなった高齢者もわんさかいる。なのに死亡者が、大本営発表の数字を信じる限り現時点で42人。なぜなのか?

人口が日本の半分しかいないイタリアの死者が6,000人以上もいて、毎日死者が数百人も出ているのに、いくら検査を渋ったとしても、結果として感染が確認されずに肺炎で亡くなった人がたくさんいたとしても、それでも不可解な死亡者がどんどん出てきているということでもなさそうだ。一体全体なぜなのか?

と、ここまで考えてきて、ふと、とんでもないことが脳裏をかすめた。ここからはそれを契機に膨張し始めた妄想なので、しかと、そう思って読んでいただきたい。妄想のスタートは、どこかで「ネアンデルタール人の遺伝子を日本人は他の国の人々よりも多く持っている」という記事を読んだのを思い出したからだ。そこから私の妄想の爆走が始まった。

 

ホモ・サピエンスというのは、約二十万年前に現れたクロマニオン人なんかの系譜を引く現在の人類なのだが、かつてそれと勢力を争っていた別の系譜の祖先としてネアンデルタール人というのがいた。で、どうやらアフリカあたりから現れた現代の人類の祖先のクロマニオン人が、4~7万年前頃にアフリカを出てヨーロッパ各地や中東に進出して祖先を増やしていったらしく、そのなかで広く各地に点在していた先住のネアンデルタール人をホモ・サピエンスが、一言で言えば、どんどん駆逐して行って世界中に広まった。

日本列島にきたのは多分4万年前頃ということらしい。昔はネアンデルタール人とホモ・サピエンスは相いれなくて壮絶な戦いを繰り広げてホモ・サピエンスが戦いに勝ってネアンデルタール人は絶滅したとされていたらしいのですが、どうもそうではないらしいということが、最近とみに進歩した遺伝子の研究によってわかったということなのです。

つまりネアンデルタール人が地上から姿を消すまでに何万年もの間、双方が入り乱れて勢力争いをしていたわけで、その気が遠くなるような長い時間を、彼らは生きる場所を互いに奪ったり奪われたりして、要するに共存していたわけです。

そんななかでは、敵の一族の女性と仲良くなった者や、互いに戦に疲れて平和条約みたいなものを締結してゆるーく共存したり、あるいは奪った相手の一族の女性を手篭めにした不埒者もいたりなどして、両者の間の混血が結構あったらしいということなのです。さもありなんと思いますが、これは遺伝子を調べた結果そうだということですから間違い無いでしょう。ナショナルジオグラフィックスなどにもそういう記事が載っています。

つまりホモ・サピエンス、要するに現代人の中には、絶滅されたとされているネアンデルタール人の血を引く人が少なからずいる、というか、アフリカ人とかはほとんど持っていないらしいのですが、現代人の多くが遺伝子の1~3%程度のネアンデルタール人の遺伝子を持っているらしいのです。人間とチンパンジーとの違いは遺伝子上は3%程度と言われていますから、これは大変な数字です。

で、なんとそのネアンデルタール人の遺伝子を有する割合が最も多いのが、我が日本列島に暮らす人々だということなのです。日本人というのは神の子孫だとか一つの民族だとかいう寝言を言う人もいるようですが、日本列島というのは、平安時代あたりからはかなり安定したとはいえ(最近また流動的になっていますが)、実は人種のるつぼで、北方や南方、あるいはユーラシア大陸からやってきた人々や、いつ頃からかはわかりませんけれども、それ以前に住んでいた人たちがミックスされシェークされた結果が、この日本列島で生を営む日本人だということなのです。縄文人とか弥生人とか言いますけれども、これは縄文人やアイヌなどのオリジンがどのように生成されたのかという謎と深く関わっています。

実はここからが本題なのですが、重要なのは、ネアンデルタール人のいくつかの特徴の中に、新型コロナウイルスをめぐる謎と関係すると思われてならないことがいくつかあるのです。それが私の妄想です。

ネアンデルタール人はホモ・サピエンスに比べると胴長短足で、成人になるまでの成長期が長く、しかもあまり変化を好まなかったということです。どうです、かなり日本人的でしょう。縄文人は1~2万年もの間、それほど暮らしを変化させず、狩猟生活でありながら定住し、農耕をして穀物を得て富を蓄えたり権力を構築したりすることもせず、四季折々の自然の恵みをいただいてかなりバラエティに富んだ食生活をしていたらしいことがわかっています。なんせ日本列島は海あり山あり水清く、しかも温暖で自然の恵みが豊かですからね。これも非常に日本人的でしょう?

争いを好まず、基本的に合議制で物事を行い、重要なことに関しては全員一致が原則で、誰かが強硬に反対すればそれは無し。そうした文化的遺伝子は日本の社会の中にも、明治以降に多数決とやらいうペテンが輸入されるまでは細々と、しかし営々と受け継がれてきました。

しかし私の妄想にとって重要なのは、どうやらネアンデルタール人は免疫機能がホモ・サピエンスよりも高かった、つまり外部からのウイルスなどに対する抗体を作る能力が高かったということです。日本人に花粉症の人が多いのは、ネアンデルタール人の遺伝子を他の国々の人たちよりも多く受け継いでいて、過剰に反応しているからではないでしょうか。イタリア人やスペイン人で花粉症の人などはほとんど見かけませんものね。だからマスクもしないのでしょう。なのに日本でマスクを自給できないというのは日本人の健康や安全保障を無視していて言語道断です。

 

それはともかく、そんなわけで日本人の免疫機能が他より若干高いことが、オリンピック開催や株価の維持や大企業の利益の死守に固執する治世者の本末転倒の不手際や具体的な対策の遅れの数々にも関わらず、死者数の現段階でのラッキーとしかいえない少なさに関係しているのではないか、というが私の妄想です。SARSの時もなぜか他の国ほどではなかったですからね。

しかし事態がここまで深刻化してくると、ご先祖様からの贈り物のおかげで、などという妄想に頼るだけではこの難局を乗り切れるはずがありません。

せっかく各国が命を賭して得たデータが続々と集まってきているのですから、少しは、例えばドイツを見習って、説得力のある状況判断と合理的なシステムによって軽症者を突き止め高度な技術を用いて重症化を防具とか、迅速で理知的で総合的な対策で侵入を今のところ食い止めている台湾や、電話ボックス型の検査施設を急造するなどして必死に拡散を阻止しようとしている韓国などを参考に、あるいは独自に努力したり、高性能の検査キットを輸入したりして、根拠や実績のある対策を具体的かつ論理的、総合的に展開して、新型コロナウイルスに正しく抵抗して打ち勝たなければ、取り返しのつかない事態になりかねません。


   この原稿を書いた日の夜、オリンピックの延期が発表された。
   このことで検査基準のタガが外れて、東京あたりで患者数が一気に増加するかもしれません。
   私の妄想はともかく、現実が悪夢のようにならないことを祈るのみです。

 

-…つづく

 

 

 

エステバン・サンツ(Esteban Sanz;1919~1994):
スペインのバジャドリッドに生まれ、幼い頃から画才を発揮。最年少でマドリッド大学の美学の教授になり、レオナルド・ダヴィンチに関する詩的論説を出版。その後マドリッドのラジオ放送やアルゼンチンのテレビのパーソナリティを経て映画監督となったのち、イビサ島にドロップイン。アニマルズに頼まれてロンドンのライブハウスにサイケデリックな絵を描いたりしたこともあるが、ヒップスターたちに慕われながら基本的にビートニック画家としてイビサで友人たちのために絵を描いて暮らした。

 

 

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

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