■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第18回:母親か女か

更新日2001/08/07 

例によってミッシーと私がトーリーの家に子どもたちを連れて遊びにいったある日のこと。昼食の後片付けを手伝いながら、ふとミッシーが言い出した。

「カレッジで同級生だった女友だちが、離婚したのよね。子どもが3人もいるのに、よ。どうするつもりなのかしら。たしかに、彼女はバリバリ働いているから経済的には何の問題もないんでしょうけれど、子どものことを考えると、一体何を考えているのかしら、って思っちゃうわ」

トーリーは例によって辛辣だ。「信じられないわね。子どものことより、自分の事を優先しているんでしょ。夫のほうに何か問題があったの? 離婚の原因は何?」「それがね、彼女は彼と一緒にいても自分は母親であっても女ではない気がするっていうのよ」と、ミッシー。「ハ、ハ! 笑えるわね。当たり前じゃない。母親なんだから。それで十分じゃない!」と、トーリー。そして、いつものごとく2人そろって、「カオリはどう思う?」 彼女たちは「非アメリカ人」の意見に興味津々のようだ。

「う~ん。まず、そのことに限っていうと、母親であっても女ではないっていうのは言い訳のように聞こえるなあ。つまりは、夫に愛想が尽きたってことでしょ」そう言うと、トーリーは我が意を得たり、という感じで頷いてから、悪戯っぽく笑いながら「嬉しくなるわね。『奥ゆかしい』日本人からそういう意見を聞くのは」と言う。私は続けてこう言った。「でもね、アメリカでの離婚率の高さって、日本じゃとっても有名なわけ。だから、普通の日本人はアメリカ人から離婚に対してそんな批判的コメントが出るとは思ってないんじゃないかな」

2人は大げさに嘆いて見せた。「ああ、なんてことでしょう! アメリカにだって、理性と秩序を重んじる人間だっているのよ。敬虔なクリスチャンはいるのよ。アメリカ人だからって誰も彼もが靴を履き替えるみたいに夫を替えたりはしないのよ。エリザベス・テーラーがアメリカ人の代表ではないのよ」

そう言われてみれば、プレイグループのなかで離婚の経験者は1人もいなかったし、マザーズクラブでも私の知る限り離婚した人はいない。数字的には、離婚率は高いかも知れないけれども、もしかしたら離婚を繰り返す人がその数字に貢献しているのかもしれない。

実際にアメリカで生活してみて、アメリカ人の友人を持ってみて、初めて今まで自分のなかにあったアメリカやアメリカ人像というものが「アメリカ人みんな」に普遍的に当てはまらないものだということを知った。そして、じつはアメリカ人の生活の表面的な部分(家の広さとか、食生活とか)は違っていても、その根底にある感情や生活感覚は日本人と変わらないのだなあ、と実感した。

 

→ 第19回:映画ではない本当のアメリカって…