■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第11回:叱る前に話を聞け

更新日2001/06/19 

子どもの叱り方は難しい。むやみに怒鳴ったからといって効果があるとは限らない。だからといって、やさしく諭すなんてことも毎回は通用しない。子どもの個性によって叱り方の効果の差もある。「痛いめに合うよ」と言えばわかる子もいる。痛いめに合わないと分からない子どももいる。いずれにせよ肝心な点は「こちらの言っていることが一番子どもに伝わるのはどの方法か」ということだ。

子育てを始めて、「自分はこんなにも短気だったのか!!」と驚いた。自分に子どもができるまでは、身近に小さな子どもはいなかったので大人とのつき合いしかなかった。大人と言ってもいろんな人がいるが、それでも私の我慢の限界に挑戦するような言動を、執拗なまでに取ろうという人間はもちろんいなかった。ところが、子どもというのは同じことを何度言ってもわからない。してはいけないと注意したことに限って、また繰り返す。機嫌が悪くなって、ぐずり始めれば道理などまったく通用しない。こちらの感情にも、体調にも気をつかってはくれない。そうなると、つい「もう!いい加減にして!」といとも簡単に堪忍袋の緒は切れるし、あとで冷静になってみると恥ずかしいくらい子どもに対して意地悪な気持ちになったりする。

アメリカの母親は、叱り上手だ。公園で、町で、あるいは友人の家で、アメリカ人の母親が自分の、時には他人の子どもを叱る場面に何度となく遭遇した。子どもを叩く人がほとんど皆無である、ということに感心した。、子どもを叱る母親が声を荒げることもまれだ。落ち着いた口調で子どもに話しかけるし、また言葉選びも巧みだ。英語と日本語という言語の性格の違いはあるが、自分が見ていなかったことを問いただすときに子どもに向かって「What did you do?!(あなた、何をしたの?!)」とは言わない。「What happen?!(何があったの?)」と聞くのだ。そうすると、子どもも頭ごなしに叱責されているわけではないので、割合素直に状況を説明できるようだ。新しい発見だった。

そこで学んだことを私は実行している。我が家でも、私が見ていないところで娘二人が何やらやっていて、下の娘(1才9カ月)が「ぎゃ~!」と泣き出すことがよくある。そんなときに「ふーちゃんに何をしたの!!」と怒鳴ったところで、上のがんこ娘(5才4カ月)は「たまちゃんは何にもしてない!」の一点張りだ。けれども、そういうときには「何があったの?」とか、「ふーちゃんはどうして泣いているの?」と普通の口調で聞く。そうすると、「たまちゃんのおもちゃをふーちゃんが取ろうとするから、たまちゃんが叩いた」と案外あっさり白状したりするのだ。ちゃんと正直に答えたときにはよっぽど危ないことをしたのでなければ、上の子を叱ることはしない。我が家ではとくに下の子が強いので、上の子が怒っても仕方ないという場合が往々にしてあるからだ。「じゃあ、他のおもちゃを貸してあげたらどうなの?」と可能であれば解決策を提案してみる。そうすると、下の子も違うおもちゃで納得したりして、意外とすんなり丸く収まったりする。

人に危害を加えること、危険なこと、人道上問題のあること、はもちろん問答無用である。その瞬間にきつく叱る。けれども、子どもには子どもなりの論理と理由がある。それはたいがいは幼い論理であり、ひとりよがりの理由である。だから、そんな無理をいつも認めるわけにはいかない。けれども、その論理と理由をとりあえず聞いてやる、というのも一つの手だと思う。その子どもの言い分を聞いてもやっぱり叱らねば、と言うこともあるだろう。しかし、ときには「あ、そういうことだったのか。聞いて良かった」と思うときがあったりするのだ。叱らなくてすんだときには、いつもより子どもが愛しく見える。

 

→ 第12回:2歳は最悪