■Have a Nice Trip! ~そしてまた、新たな旅が始まる…

安田 修
(やすだ・おさむ)


1958年、神戸生まれ。ルポライター、JTB 系広告代理店(マーケティング・制作)等を経て、現在はフリーとしてライターや出版企画などのプランナーとして活躍する。世界の辺境が大好きな現役バックパッカーで、ネットサークル「海外に住もう会」を主宰している。世界各国の移住情報や長期旅行の情報をまとめた「海外移住情報」をネットで公開中。
著書『日本脱出マニュアル』



第37回: チリ、イースター島の日本伝説
第36回:テニアンの日本人
第35回:ベトナム、スリの女の子

第34回:ハンガリー、温泉にはまるツーリストたち
第33回:コスタリカ、ニ人の17歳の女の子
第32回:グァテマラ、アンティグアの主産業はスペイン語学校
第31回:アルゼンチン最南端・フエゴ島の日本人
第30回:カンボジア、この国はいつたい誰の国?
第29回:ブラジルの日系共同体農場
第28回:マケドニア模様
第27回:マケドニア、国際列車にて…
第26回:ベトナム、これってボランティア?




■更新予定日:毎週木曜日

第38回: キューバ、ドルの威力

更新日2002/12/05


メキシコのカンクンから空路で約1時間、数少ない共産主義国家キューバのハバナ空港へあっという間に到着した。メキシコのユカタン半島とキューバは、ユカタン海峡をはさんで約5,000キロという近さだ。ハバナを訪れた時は、キューバ国民の米ドル所持が解禁になって日が浅かったためか、ドルの威力は想像以上のものだった。

「この国は、政治では米国と対立しているものの、米国などからの観光収入で成り立っているんだ。観光客がドルをこの国に持ち込むことで、国民はみんな、ドルの威力を知ってしまったよ。この先どうなることやら…」

モノ不足が深刻なキューバでは、米国などからの輸入品に頼らざるを得ない。しかし、キューバのペソは米ドルと比べると紙クズ同然。米ドルがなければ何も手に入れることができなくなっていた。

以前は外国人観光客だけしか入れなかったドルショップも開放され、ドルさえあれば誰でも何でも買えるようになった。そして、スーパーマーケットは長蛇の列。ドルを持っている人の多さにも驚かされた。

「何故こんなに、みんなドルを持っているんだい?」
「キューバは米国などに出稼ぎに行っている人が多いからね。親戚に一人ぐらいはいるから、仕送りしてもらっているのさ。もちろん以前はドルの所持は非合法だったから、タンス預金をけっこう持っているんだよ」

こう話してくれたのは、スーパーマーケットのドア越しに中を覗いていた若者。親戚からの仕送りはないので、ドルは持っていない。
「他にも、観光客相手の商売をしている奴はドル成金さ。タクシーの運転手なんかはドル収入だし、けっこうチップをもらうしね。企業幹部がタクシー運転手に競って転職するのが当たり前になっているよ。ところで、どこのホテルに泊っているんだ? ホテルのトイレットペーパーや石鹸をもらえないかな…」

ドルを持っている外国人は、混んでいるスーパーや商店でも特別待遇だ。並ぶ必要もないし、ドルを持っているだけで誰でもVIPだったりする。優越感や罪悪感が交錯する不思議な感覚を味わったりもする。

一方、経済的に追い込まれていても、キューバはラテンの国。中南米のどのラテン国家よりも陽気で明るく、おまけに人なつっこい。暗いイメージなど、この国には一切無用といった感じだ。

また、バイクのひったくりは日常茶飯事。街を歩いていると、見知らぬ人からも「バイクには気をつけるのよ。バッグは必ず前に抱えるように持たないと、ひったくられるわよ」といった言葉をかけられる。事実、アメリカ人観光客がバイクに乗った男たちにネックレスやショルダーバックをひったくられる現場を何度か目撃した。

しかし、他の国々と違うのは、必ず周辺の人たちが駆け寄ってきてヘルプの手が差し伸べられることだ。自然と大きな輪ができてしまい、みんな心配そうに声をかける。そんな現場と遭遇する度に、キューバという国の素晴らしさを実感する。

米ドルには支配されても、キューバらしさはいつまでも失わないで欲しいものだ。

 

→ 第39回:中国、大連の国家安全局員