第28回:マケドニア模様
更新日2002/09/26
マケドニアの首都スコピエからバスで3時間。対岸にアルバニアを臨む広大な"オフリド湖"は、マケドニアを代表する観光地だ。1泊6ドル前後のプライベートルームが豊富なために、安く旅したい長期滞在者のオアシスとして知られている。
オフリドに滞在する旅行者の日課は釣りだ。湖でマスを釣ってきては、宿や湖岸で食べるのが一番の楽しみ。このためか、名物のマス料理を食べさせるレストランは、あまり繁盛していない。
山に入ると伝統的な生活を守りながら暮らしている小さな村々が点在している。素朴な村の風情に触れると、タイムスリップしたような感覚にもなってしまう。また、村では黒い瞳と黒い髪が美人美男子の条件。何故か金髪系は人気がないらしい。
「オフリドも、だんだんと住みにくくなってきたよ。ここは経済とは無縁で、平和に暮らしていける唯一の場所だったのに、隣のアルバニアからマフィア成金が入ってきては、大きな顔でやりたい放題だ。そんなアルバニア人を相手に儲けようと、商売熱心なトルコ人が大勢やってくるようにもなったし、いろいろ振り回されているよ。アルバニアも社会主義時代は平和だったし、マケドニアもそうだった。この国では自由主義が逆に国民の首を締めているのさ」
こう話すイギリス人のガイドは、西欧の経済文化から抜け出しこの地に根を下ろした。オフリドが世俗的になっていくのが、たまらなく嫌だという。
また、宿泊していた宿の子供は、「大人になったら、軍隊に入ってアルバニア人を追い出すんだ」と、10歳ながら真剣な表情で言う。同じようなことを口走る子供たちが多いのにもびっくりした…。
一方、首都スコピエはイスラム文化の影響が強く、中心にそびえ建つモスクがやけに目立つ。近くを流れる小川には魚が泳ぎ、とても首都といった感じがしないものの、オフリドとは違って、立ち寄る観光客はひたすら少ない。
宿泊する人がいないからホテルの料金も高く、中級ホテルは60ドル以上。郊外にある一番安いユースホステルのドミトリーでも13ドルといった環境だ。ただドミトリーといっても、宿泊客がいないので個室として独占できたりもする。
ある日、部屋にいると、「レストランで結婚披露宴をやっているから参加しないか」というお誘いの言葉。興味本位で行ってみると、新郎新婦や招待客がアコーディオン演奏をバックに踊っている。部屋の片隅にはフライドポテトが山ほど盛られ、口にほうばりながら踊っている姿が印象的だ。
参加させてもらったお礼を言うために、新郎に話しかけると、満面の笑みが帰ってきた。
「僕は車の整備士だから、日本の車は憧れさ。ただ整備だけでは苦しいから、夜はタクシーの運転手もしているよ。200万円程度で新しいマンションが買えるから、それを目標にがんばっているんだ。日本車も欲しいけど、家と同じ値段だから多分無理だろうね。ところで、何でマケドニアに旅行に来たんだ。本当に珍しいよ…」
新郎の月収は約3万円。国家が独立してから失業率は増えるばかりで、仕事があるだけましだという。タクシー料金はかなり安いものの、タクシー運転手の売上や生活事情を聞くと、安いというだけで喜ぶことはできなかった…。
→ 第29回:ブラジルの日系共同体農場