■Have a Nice Trip! ~そしてまた、新たな旅が始まる…

安田 修
(やすだ・おさむ)


1958年、神戸生まれ。ルポライター、JTB 系広告代理店(マーケティング・制作)等を経て、現在はフリーとしてライターや出版企画などのプランナーとして活躍する。世界の辺境が大好きな現役バックパッカーで、ネットサークル「海外に住もう会」を主宰している。世界各国の移住情報や長期旅行の情報をまとめた「海外移住情報」をネットで公開中。
著書『日本脱出マニュアル』



第42回:メキシコシティのナイフ強盗
第41回:オーストラリア、ゴールドコーストのツアーガイド裏話
第40回:インド、ダージリンのイメージと現実
第39回:中国、大連の国家安全局員
第38回:キューバ、ドルの威力
第37回:チリ、イースター島の日本伝説
第36回:テニアンの日本人
第35回:ベトナム、スリの女の子

第34回:ハンガリー、温泉にはまるツーリストたち
第33回:コスタリカ、ニ人の17歳の女の子
第32回:グァテマラ、アンティグアの主産業はスペイン語学校
第31回:アルゼンチン最南端・フエゴ島の日本人
第30回:カンボジア、この国はいつたい誰の国?
第29回:ブラジルの日系共同体農場




■更新予定日:毎週木曜日

第43回:ロシア、モスクワ空港警察官の小遣い稼ぎ

更新日2003/01/16


ロシアのモスクワ空港を訪れる日本人が必ず口にする言葉がある。暗い、地味、職員の態度が悪い…などなど。実際に空港に行ってみると、他国ではあまり目にしない光景が繰り広げられていた。

空港で目につくのは空港警察官たちだ。仕事は空港内の警備とトランジット客の管理で、女性職員の姿も多く、見るからに横柄な態度が旧共産圏らしい。

空港内の写真撮影はもちろん禁止となっているものの、パチパチ写真を撮っている観光客も多くいる。そんな時、空港警察の小遣い稼ぎが始まる。

ある場所を写真に収めようとカメラのシャッターを切り、ストロボが発光した瞬間、どこからともなく女性の空港警察官がすっ飛んできた。

このまま別室行きで逮捕されるのかと思うほど、ものすごい形相で怒っている。しかし、"カモが見つかった"というような感じで喜んでいるようにも見えた。

「ペナルティ! ペナルティ! ペナルティ!」
英語をあまり話せないために、口にする言葉は"ペナルティ"の連呼。
「ペナルティってなんだ?」
そう問うと、女性警察官はいろいろと思いをめぐらせたのか、間をおいてから口を開いた。
「あなたはトランジット客でしょ。トランジットホテルには行かせない。この空港で夜を過ごしなさい」

モスクワ空港は24時間空港。売店なども24時間営業している。いまの時刻は夜の8時だが、飛行機に搭乗できるのは翌朝の10時。トランジットホテルに行かずに空港で夜を過ごす旅行者もいるものの、ちょっと長すぎる。それにすでに予約しているので、宿泊料金が無駄になる…。
「それは困る。どうすればホテルに行ける?」

女性警察官は一瞬"ニヤッ"とすると、 「ちょっとこっちに…」と言って、片隅に手招きをする。
「じゃあ罰金を払いなさい。撮影したのは事実だから悪いのはあなたでしょ。罰金を払えば、撮影した写真はそのままでいいから…。」
「罰金って、いくら?」
また間があって、いろいろ考えている。
「罰金は20ドルよ」
「20ドル…? いま、外貨は10ユーロしか持っていない」
「OK! 早く出しなさい」

財布を取り出すと、財布の中身を覗き込んできた。
「20ユーロあるじゃない」と言って、20ユーロを財布の中から取り出そうとする。
「10ユーロは今夜の飯代だから駄目だ」
そう制すると、「しょうがないわね、分かったわよ」と言いながら、財布から10ユーロを抜き取った。

自分のポケットに10ユーロねじ込むと、途端に満面の笑顔になった。
「スパシーバ!」(ありがとう)と言いながら握手を求めてきた…。

 

→ 第44回:ギリシア、アテネのさんざんな一日