第15回:タイは日本をこう見てる・Jコミックの浸透度
更新日2002/12/12
日本の漫画やアニメは、日本人が想像するよりはるかに世界各国に輸出されていたらしい。ここタイでも、20代、30代といった世代が子供時代に見ていたテレビ番組は、『ドラえもん』だったり、『Dr.スランプ』だったり、『機動戦士ガンダム』だったりする。日本人とタイ人の子供時代のノスタルジアがシンクロするなんて、なんだかフシギな気持ちにさせられる。
その影響はひっそりと絶大だ。ドラ焼きはタイ語で“ドラえもんのお菓子”と呼ばれているし、タイスキのメニューにある具の竹輪はタイ語でも“チクワ”だ。ちなみにこのチクワ、『忍者ハットリくん』に登場する獅子丸の大好物である。
女の子たちは当然のように少女コミックに夢中になる。学校が舞台になり、その中で好きだの嫌いだの両想いだの失恋だのと恋愛模様を繰り広げる。憧れの先輩に想いを寄せる下級生。クラスの人気者からある日突然告白されるヒロイン。
笑ってしまうのは、タイの女の子たちは漫画の中の男の子を現実世界に投影しようとする。それも、誰の目からもわかるように形から入る。去年デビューした少年アイドルグループ、D2B(ディー・トゥー・ビー)がそれだ。

21世紀タイのアイドルグループ、D2B
タイ人離れしたすっきりした顔立ちの男の子3人組が、日本の学生服を着て、歌い、踊る。長袖の黒の学生服は、常夏の国タイでは暑苦しいことこの上ないのだが、それでも女の子たちは嬌声をあげてコンサートに駆けつける。
その学生服をまじまじと観察してみると、正式な詰襟ではなく単にスタンドカラーになっていたり、袖口にボタンがなかったりする。いかにも漫画の中からの模倣ですよといわんばかりの、なんちゃって学生服なのだ。
しかし、この学生服信仰は思いの外信者が多い。ティーン用コロンのコマーシャルでは、憧れの先輩にハンカチを差し出した女の子が、そのお返しに学生服の第2ボタンをもらっていた。タイの少女たちはこのシーンの意味が理解できるのだろう。ワタシが心配するまでもなく。
今でもそんな迷信めいたものが日本の中高生の間に残っているのかは知らないが、ワタシが中学生だった20年前は、学生服の第2ボタンは特別な意味を持っていた。男子が自分の好きな女子にあげたり、逆に女子が男子からもらおうとすることは、幼い恋の告白を意味していた。これは卒業式につきもののお約束イベントだった。
タイの中高生にも制服はあるが、半袖シャツに膝丈の半ズボンといった少し子供っぽい格好だ。しかも校則で頭髪はバリカンで青々と刈り上げた坊主頭である。男の子よりも精神年齢が高い女の子たちが、自分の恋の相手には物足りないと思い、漫画から抜け出たようなアイドルに恋焦がれるのも無理はない。
バンコクの中心部にサイアムスクエアと呼ばれる場所がある。最新流行の発信地だとか、バンコクの渋谷や原宿と形容される場所である。ファッションも一般人向けというより、ちょっと意匠を凝らしたようなものも多く、デザイナーが自分で構えている店も多い。
ここで今一番ホットなショップは「HAPPY BERRY」だろう。20代前半の女性デザイナーたち自らが店頭に立って服を売るのだが、そのファッションは派手で奇抜でタイ人離れし過ぎている。ちょうど日本のファッションの最先端を行くカンジだ。
あるとき、タイ人とこのブティックについて話をしていたら、なんとこの店名は日本の漫画の中から取ったものだということがわかった。その漫画は『ご近所物語』。主人公のデザイナー志望の女の子は自作の服のブランドを発表し、その名が「HAPPY
BERRY」というのだそうだ。
自分の生活の一部を日本の漫画に重ね合わせ、それを体験する。タイという国で日本の空想の世界がリアルな輪郭を持ち始める。
第16回:タイは日本をこう見てる・アヤシい日本語大集合
