第12回:タイ人を知る―タイを語る二大キーワード
更新日2002/11/21
“サバーイ”という言葉がある。これは、心身ともに快適な状態にある、という意味だ。タイ人はこの“サバーイ”をしばしば会話の中に登場させる。暑い屋外からエアコンの効いた室内に入って“サバーイ”。マッサージをしてもらってコリがほぐれたら“サバーイ”。夕方に雨が降り、夜風が涼しく気持ちよく眠れるのもまた“サバーイ”。
しかしこの“サバーイ”、単純に「快適」という意味だけではなく、「本来あるべき姿に比べて、簡単、またはラクである」という、ちょっと深めの意味もある。仕事が“サバーイ”といった場合は仕事の量が程良く快適という意味ではなく、仕事の負担が少なくてラクチンだという意味なのだ。
タイ人は基本的にめんどくさいこと、疲れそうなことはできるだけ回避しようとする傾向がある。そして行き着くところはこの“サバーイ”なのである。確かに熱帯のこの地で、真面目にこつこつ何かに取り組むことはそぐわない。暑さで汗や体力を消耗するし、なにより思考回路がしゃっきりしない。
そんなとき、仕事や勉強が“サバーイ”だったら。キリギリスは、キリギリスのままでそこそこ成果をあげることができるだろう。もともと寒い季節がないのだから、アリのようにせこせこ働く必要もないワケだ。

ルンピニ公園の椰子の樹
大部分の日本人は、この“サバーイ”を目の当たりにすると、タイ人は怠惰な民族だと思うらしい。だが、本当は心のどこかで、「自分もこうやって暮らせたらいいな」と密かに思っているのは確実である。羨望は裏返しにされて、批判という形に変わる。日本という国には明らかに“サバーイ”が欠けているからだ。
もう一つ、タイ人を語る上で忘れてはいけない言葉、それは“マイペンライ”である。大丈夫、どうということはない、という意味のこの言葉は、タイ人の日常生活で使わない日はないと言っていいくらいだ。
待ち合わせの時間に相手が遅れたら“マイペンライ”。でも自分が遅れても“マイペンライ”。料理を頼んで間違った料理が来ても“マイペンライ”。ウエイターが自分のミスだと気づいても“マイペンライ”。相手に使う場合には、相手の非を打ち消し、緩和する作用がある素晴らしい言葉だが、自分自身に使う場合は、自分の非を弁解し、さも正当化しようとするいやらしい言葉になる。
でも自分で“マイペンライ”を使ってみると気づくことがある。相手に寛容になることができる自分。日本人というのは、融通が利かなくて狭量なところがありがちだ。相手の非を否定できるのは、本当の意味で大らかな心を持てたように思う。
そして、物事を鷹揚に構えることができる自分。神経質にあれこれ考えていたことの大半が、実は他愛もないことだとわかったときの驚き。明日できる仕事は明日にする。今日できる仕事も明日にしてしまってもいいかもしれない。もし誰にも迷惑がかからないのなら。
なんだ、タイ人を知ることは、結果的に自分を、そして日本人を知ることなんだと思ったりする。肩肘張らずに、もっと気楽に行こうよ。そうタイ人は教えてくれているような気がする。そして、実はタイ人のように“サバーイ”で“マイペンライ”に生きることが、最高に羨ましい生き方なんではないかと思ったりしている。
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