■My Bangkok Life〜暮らしてわかったマイペンライの国

増成 ヒトミ
(ますなり・ひとみ)


1968年生まれ。埼玉育ち。大学卒業後勤め人を経て、97年からタイのバンコク在住。几帳面を絵に書いたような性格が、タイに来てから後天性マイペンライ症候群に。「ヒトミのバンコクな毎日」もどうぞ。



第1回:イントロダクション〜バンコクとの出会い
第2回:住んでみる―意外と快適な住宅事情
第3回:食べてみる・前編―辛い料理は好まれない?
第4回:食べてみる・後編―屋台料理をエンジョイしよう
第5回:移動する・前編―陸の救世主はバイクタクシー
第6回:移動する・後編―渋滞知らずの水上交通
第7回:着てみる―足長スレンダーVS胴長短足
第8回:買い物をする―タイ人も敬遠する“メイド・イン・タイランド”
第9回:読んでみる―エロ・グロ・スプラッターな大衆新聞
第10回:テレビを見る―大衆娯楽の連続ドラマ


■更新予定日:毎週木曜日

第11回:話してみる―同じ土俵でコミュニケート

更新日2002/11/14


「タイ語は東洋のフランス語」と呼ばれていると教えてくれたのは、タイ語の家庭教師の先生だった。

ワタシ的にはタイ語とフランス語は似ても似つかない言語だ。文法、文字、発音形態……、タイ語のどこが“フランス”しているのかさっぱりわからない。ただ聞いたところによると、タイ語の持つ独特の抑揚やリズムは非常に美しく、それはフランス語の持つ言葉の美しさによく似ているのだとか。

しかし日常生活の中で耳にするタイ語は美しくもなんともなく、むしろ下品の域に入っているとしか思えない。つばを飛ばしながらがなるように話す物売り。べらんめえ口調の路線バスの運転手。フランス語に例えられるタイ語はきっと、身分の高い人がゆっくりと穏やかに話す洗練された言葉なのだろう。

タイ語というのは、丁寧語や尊敬・謙譲語といった敬語があり、話し手と聞き手の上下関係を明確にする、日本語に近いニュアンスを持つ一方、動詞の変化もなく、名詞の複数形もなく、時制も曖昧な、実に素朴で原始的な言語だ。


文字に見えないタイアルファベット

加えてタイ語は極めて適用範囲の狭い言語だ。基本的にはタイの国内でしか使えない。ラオス語と文字が非常に似通っているので、ラオス語の地図の地名や看板がなんとなく読めないことはないが、正確には似て非なるものである。

タイという国が持つ世界的な影響力を考えてみれば、タイ語が話せることで国際社会の舞台で活躍する機会というのも当面の間なさそうだ。それよりも世界の統一言語として使われている英語を操れた方がずっと実用的のような気がする。

しかし。たまに訪れる観光客ならともかくも、どういう形であれタイで生活しているのであれば、英語を話す外国人はいつまで経っても“お客さん”のままだ。バンコクに住んでいれば日常の用は英語で済ませることが可能だが、それってなんだか上っ面だけの関係のような気がしてしまう。英語というメッキをさして、タイ人はその本性をうまく包み隠してしまうのだ。

タイ語は外国人が知らない言葉、ということになっている。土産物売りが客の目の前で悪態を吐く。娼婦が客に腕を絡ませながら仲間に客の痴態を暴露する。「いいの、いいの。この人たちは何を言っているかわかりゃしないんだから」という、彼らの腹の中の声が聞こえてきそうだ。「所詮彼らは“お客さん”なんだから」。

そんな言葉をワタシたち外国人が話せるようになると、タイ人の態度ががらりと一変する。「なんだ、タイ語を話せるなら初めから言ってくれればいいのに。」「へえ、タイ語が話せるの。上手だね。」「特別に“タイ人価格”で売ってあげるわよ。」……ばつの悪そうな顔をする人、素直に尊敬と好奇の目を向ける人、急に馴れ馴れしい態度を取る人、いろいろであるが、共通しているのは我々に親近感を感じてくれたということだろう。

タイ語がこの国でしか使えない言葉だということは、当のタイ人たちも重々承知の上なのだ。だからこそ、そんな応用範囲が狭い言葉をあえて学習して使いこなす外国人に仲間意識を感じてくれるのも理解できるような気がする。

自分たちが言っていることが外国人に理解されているというのは、ある意味彼らにとって恐怖でもある。もう目の前で堂々と悪態を吐くこともできない。そう、タイ語を正しく理解することは、タイ人に畏怖の念を抱かせて一目置かせるということにも効果的なのだ。

ワタシが初めてタイで仕事に就いたときの日本人上司のタイ語レベルは相当なものだった。会話だけでなく、読み書きも相当できた人だった。「タイ語をどうしてそこまで勉強したんですか?」との問いに、彼はあっさりと「タイ人に騙されたくないからね」と答えた。

そのときはつまらないことを言うなあと思ったけれど、今は彼の言いたかったことが理解できる。タイ人と同じ土俵でコミュニケートするには、英語なんか話してちゃダメなのだ。相手のタイ語が理解できる。タイ文字の書面の内容が読み取れる。「おぬし、なかなかヤルな」と相手に思わせたらシメたものだ。今度はワタシたちがタイ語のメッキでうまく武装することができたのだから。

 

 

第12回:タイ人を知る―タイを語る二大キーワード

 
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