第23回:タイの蘭・タイ人も知らない国花とは?
更新日2003/02/13
タイ国際航空に乗ってぶーんとバンコクへ飛ぶと、到着間際に蘭の花を一輪渡される。花には安全ピンがついていてブローチにできる。ご搭乗の記念にどうぞ、ということなのだ。生の花なので何時間も保たず、もちろん記念として取っておくことは難しいのだけど、紫と濃いピンクが混じり合った鮮やかな色を目にするだけで、「タイに来たぞぉ」という気分になれてワタシは好きだ。
この蘭の花、タイ土産としても人気が高い。わざわざ自分で持ち帰らずとも、日本の自宅へ配送してくれるサービスを利用すると、デンファレという種類を15本ほど送って送料込みで4千円ほど。
だがこのデンファレ、実は仏花としてもポピュラーな花で、地元の市場で買えば5本で10バーツ(約30円)とバラの花よりはるかに安い。タイ人には蘭=高級というイメージはなく、どこに行っても見かけることができるありふれた花の一つなのだろう。

公園に咲くデンファレ
そんな風に巷で目にする機会が多いので、蘭の花はタイの国花だと思っている外国人が多い。確かに、その国の名前だけで花の画が思い浮かぶようでないと、国花の名には相応しくないだろう。だが、蘭はタイの国花ではない。
では正真正銘のタイの国花とは? 仏教と結びつきが深い蓮の花や、貴賓を迎えるときの花輪に使われるジャスミンの花など、いずれもそれっぽく思えるが実は違う。タイの国花は、ゴールデンシャワーというマメ科の黄色い花なのである。
ゴールデンシャワーという花は、樹の枝から藤の花のようにこぼれ落ちながら咲いている。一つ一つはそれほど大きい花ではないのだけれど、房になって垂れ下がる様はまさに「黄金のしずく(ゴールデンシャワー)」だ。黄色の色がとても鮮やかで、目にまぶしい。
このゴールデンシャワー、タイ語では“ラーチャ・プルック”といい、“王の樹”という意味があるそうだ。“王の樹”というにはいささか威厳が足りないのではと思わせるこのゴールデンシャワー、なぜゆえにタイの国花なのかその由縁を知りたくなった。
ところが、ワタシの周囲にはこの疑問に答えられるタイ人がいない。そもそも自分の国の国花が何なのかもわかっていない人が多いのだから、それも仕方ない話か。ということで、ワタシなりの勝手な解釈をつけてしまうと、現国王ラマ9世は月曜日のお生まれ。月曜日生まれの人のラッキーカラーは黄色なので、この花が選ばれたのではないかとこじつけてみた。
(余談だが、タイ人は自分の生まれた曜日を知っていて、それを占いのときに利用する。それぞれの曜日のラッキーカラーは、日曜:赤、月曜:黄、火曜:ピンク、水曜:緑、木曜:オレンジ、金曜:青、土曜:紫となっている。)
ラマ9世のご即位以前にこの花が国花とされていたのならまた別の話だが、ラマ9世は今年で在位57年目なので、国花の制定はご即位以降ということも充分考えられる……ということにしておこう。
しかし、国花の定義が「国を代表する花」だとしたら、蘭を国花とするのは当たらずとも遠からずだ。タイの蘭栽培業は、外貨を稼ぐ重要な輸出産業になっているからである。
蘭宅配サービス業を営むある日系企業では、10万
という自営の農場を持ち、そこで栽培した蘭の花を日本だけではなく、イタリア、フランス、ハンガリー、アメリカなどに輸出しているそうだ。更なるマーケットとしてロシアなども開拓したいということで、市場リサーチに余念がない。蘭の花はタイを離れて海を渡り、小さな外交官となり欧米人の目を楽しませる。
そこへいくと、ゴールデンシャワーは寺院の敷地内や公園の片隅で、静かに花を咲かせるだけだ。だがその謙虚さはラマ9世がタイ国民に説く“ほどほどの暮らし(背伸びをせず、身の丈に合った暮らしをしようということ)”につながるところがあって、それが“王の樹”と呼ばれる本当の由縁ではないかと、一人であれこれ想像している。
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