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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第12回:カルト・ケイト ~用意されていた新聞記事?!

更新日2017/08/24

 

『シャイアン・デイリー・リーダー』紙のエドワード・タワーズの記事によれば、リンチ組6人が踏み込んだ時、ジェイムスの小屋はウイスキー瓶と呑みかけのグラスや薬莢が散乱していたとあるが、彼の店なのかファームハウスなのか判然としないどころか、どちらにしろ、6人組はケイトもジェイムスも路上で拘束している。

このようなタワーズの創作記事をそのまま転載した新聞、雑誌は多い。現在に至るまで、例えばケイトとジェイムスのリンチ事件をGoogle検索すると、このタワーズの記事を焼き直しただけの掲載が未だにあるほどだ。ここにマスコミの恐ろしさ、声高に叫び続けるとそれが既成事実となり、一人歩きし出す現象を見ることができる。

もっとも、近年のマジメなリサーチャーでタワーズの記事を信用している者はいない。しかし、タワーズの第一報が与えた影響の大きさは、たとえ彼の記事がウソで固めた、ハナから牧畜男爵に組したものであるにしろ無視できないものがある。

ケイトとジェイムスがリンチに遭ったニュースは、リンチ組を追跡したフランク・ブキャナンがスイートウォーターの村に知らせているので、村人たちはこの重大事件をいち早く知ったに違いない。というのは、未だにそうだが、ワイオミング州全体の人口密度が極めて低く、ましてやスイートウォーターのような開拓部落では、どんなニュースでも口から耳へと異常なスピードで広がるからだ。ましてや、アンチ牧畜男爵、大牧場主の横暴を歯に衣着せずに書きまくり、アンチ牧畜男爵運動の中心人物、論客だったジェイムスが新妻と伴に殺されたような事件は、異常な勢いで広がったとしても不思議ではない。

当時の遠隔地のニュースは、電報で電文を新聞社に書き送り、その電文を元に編集者もしくは書き手が新聞紙上に掲載できるような文章に仕上げ、印刷し、発行した。この『シャイアン・デイリー・リーダー』紙の記事の文章に付きまとうウサン臭さは別にしても、時間的な無理、不可能性があるのだ。万が一、実際に牧畜探偵たるジョー・ヘンダーソンが事件後即馬を飛ばしてローリンズの町まで行き、事件の翌日7月21日の夜遅くにローリンズに着けば、鉄道の駅の通信係を叩き起こし、電報を打たせ、それをシャイアンの電信局が受け取り、新聞社に配達し、その電文を元にタワーズが22日の朝刊に間に合わせるよう記事をでっち上げることができた時間的な可能性はあるにはある。

前に書いたように、ジョー・ヘンダーソンがローリンズから『シャイアン・デイリー・リーダー』紙のタワーズに送ったという相当な長文になったはずの電報は残っていない。また、ジョー・ヘンダーソンが晩年になって書いた『My life in the range』は、勝ち将軍の回想録のように良いトコ取りの記述に終始するにしろ、一番大きな事件だったはずのケイトとジェイムスのリンチに関しては巧みに避けている。ただ、リンチ前日の7月19日に牧畜探偵として、ケイトの牧場を探索した結果、50頭以上の“疑わしい焼印”を押した牛がいたというだけで、ジョー・ヘンダーソンがタワーズの目鼻になってレポートを新聞社に送ったことなどは書かれていない。ましてや、一日の行程をそのリポートを電報で送るためローリンズまで馬を飛ばしたことなど、一言も書いていない。

どうして、タワーズがリンチ事件をそんなに早く知ることができたのだろうか? 
ジョー・ヘンダーソンもエドワード・タワーズもケイトとジェイムスが拘束された現場にも、吊るされた現場にもいなかったことだけは確かだ。にも拘わらず、タワーズがいかにも見たようなことを想像だけにしろでっち上げることができたのは、タワーズが事前にこの事件を知っていたと考えても間違っていないだろう。

ジョー・ヘンダーソンとエドワード・タワーズは旧知の間柄で、ジョー・ヘンダーソンはケイトとジェイムスを7月20日に殺害する、リンチに処する確定的な予定があることをタワーズに前もって知らせていたのだと思える。ジョー・ヘンダーソン自身がリンチをやった6人組を巧みに焚き付け、前日に彼がケイトの牧場を密偵した結果を6人組に誇張して伝えている事実がある。リンチは6人ではなく、もう一人、実際に現場にいなかった男、ジョー・ヘンダーソンが第7番目の男、影の主犯として6人組、“法の履行者”(regulator)を巧みに操っていたと思える。これはジョー・ヘンダーソンという男の前歴からの私の想像だが、間違っていないと信ずる。

ジョー・ヘンダーソンはピンカートン探偵社にいた時も、会社側に雇われ、炭鉱のスト破りのため組合側にスパイとして入り込み、巧みに煽動し、スト破りを成功させている実績がある。 リンチ事件の時、ジョー・ヘンダーソンは広大な牧場を所有している71牧場のジョン・クレイに雇われ、牧畜探偵として働いていた。ジョン・クレイにとって、目の上のタンコブのような邪魔な存在だったケイトとジェイムスを殺害させるため、ケイトの牧場の隣人たちを焚き付け、ケイトとジェイムスをリンチに架けるように煽動したとみて間違いないだろう。そうすれば、牧畜男爵たるジョン・クレイは、自分の手を汚さずにケイトとジェイムスを処分できるのだ。

後は、何時二人を木に吊るすか、それをどのようにシャイアンへ知らせるかだけの問題になる。電文は送り主が手書きで申込用紙に書き込み、それを見ながら通信士が電報を打つ。 電文に間違いがない、正確なものであることを立証するため、申込用紙の原稿も保存される。アウトロー史だけではなく、歴史的な電報の手書き原稿、申込用紙がオークションで高値を呼ぶ由縁だ。

ここからは推測になるが、ジョー・ヘンダーソンは事件の詳細を長文の電報を送らなかったが、事前の打ち合わせ通り、「ハナ、チル(花、散る)」式の電文でタワーズに知らせたのだろう。この電文なら、ジョン・クレイの下で働いている何十人もの牧童の一人をローリンズへ駆けさせるだけでよいからだ。

タワーズは電報を受け取るやいなや、ジョー・ヘンダーソンとの打ち合わせ通り、記事をでっち上げたのだろう、それがリンチ組は10人から20人いたとなり、銃撃戦が展開されたと演繹された記事に繋がったのだろう。ジョー・ヘンダーソンはケイトの牧場界隈の牧場主や牧童がこぞってリンチに加わると予想し、10人から20人にはなると踏んでいたのだろう、それにケイトもジェイムスもすんなり拘束されるはずはなく、かなり抵抗し、銃撃戦になるはずだと予想し、それがそのままタワーズの記事になったのだと思う。

-…つづく

 

 

第13回:カルト・ケイト ~混同された二人のケイト

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第10回:カルト・ケイト
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第11回:カルト・ケイト
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