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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第6回:カルト・ケイト ~牧畜捜査官ジョージ・ヘンダーソン

更新日2017/07/13

 

牧畜探偵、捜査官という職業があった。牛や馬の盗難事件を専門とする捜査官で、牛なら近隣の焼印ブランドに通じ、馬なら書類上の所有権証書に書かれた特徴をよく記憶し、それがどの馬に当たるのか見極めるプロだ。

私なら馬の所有権証書に書かれた馬の特徴、血統を見ても、白馬と黒馬の区別くらいはつくが、すべて同じ長い顔の馬に見えるのだが、捜査官は所有権証書に記述された特徴を読み、どの馬だとピタリと言い当てることができるという、一種の特殊技能の持ち主なのだ。

牛の方はそういう訳にはいかず、ついて回る売買契約書と牛の尻に押された焼印=ブランドがすべてだった。ジョージ・ヘンダーソンは、この界隈の牛馬に通じた牧畜捜査官だった。捜査官、探偵といっても、シェリフのように選挙で選ばれ、町や郡、州から給与の出る仕事ではなく、大牧場主に雇われ、牛や馬の盗難を防ぎ、牧童たちがチョロマカスのを監視し、近隣の牧場に、彼の雇い主のブランドの牛が混じっていないかを探るのが仕事だ。

したがって、自分の雇い主のところに他の牛が混じっていても、“我感知せず”で通すが、近所の牧場で彼の雇い主の牛が迷い込んでいたら、厳然とその牛を連れ帰り、帰りがけの駄賃として、まだブランドの押していない子牛を頂戴したり、その牧場主を牛泥棒として訴えたりするのだ。

このジョージ・ヘンダーソンの雇い主が、先に書いた大地主で大牧場主のジョン・クレイだった(この牧畜捜査官ジョージ・ヘンダーソンは、後に『My life in the Range』という当時のワイオミングの牧畜を知るために役立つ本を書いている)。少牧場主たちは、当然のことだが、捜査官ジョージが自分の領内、もしくは近くをうろつくのを嫌った。

1889年7月20日、捜査官ジョージはケイトが隣人の牛を盗んだとの報を確認するため、ケイトの牧場界隈を偵察している。この通報は事実無根で、ケイトは前の年に28頭の牛を購入しており(ジョン・クロウダーから購入し、売買契約書も現存する)、その牛には、ケイトがジョン・クロウダーから購入した“LU”というブランドの焼印を押してあった。ケイトはこの“LU”ブランドに10ドル払い、ローレンスの裁判所に登録している。

ブランドの登録は厳格で、広大な西部に同じブランドが存在しないよう、実際には紛らわしい焼印が相当数あったのだが、また、古い焼印の上に別の新しい焼印を押したりしにくいよう配慮され、焼印ブランドを見れば、どこの誰それの牛だと一目瞭然で分かるようになっていた。ブランドの登録は現代の車の所有権証書より大切なことだった。

ケイトはその28頭の牛に自分のブランド焼印“LU”を押し、バラ線のフェンスを回した60エーカーに囲っていた。だが、その前の年、1888年にケイトは“LU”ブランドを登録しているのに、翌年の春まで自分の牛に焼印を押していないのだ。これを以って、ケイトが牛を盗んでいた、素性のハッキリしない牛を集めていた…とされているが、それは当たらない。

フリーレンジに、すなわち国有、州有林に解き放たれた牛を集めるランド・アバウトまで、この場合は1889年の春まで、焼印を押すことを禁止している習慣法“Maverick Law”(焼印を押してない牛、馬に関する法案)というものがあり、放牧中の牛に焼印を押すことができなかったのだ。

この法律はランド・アバウトで集めた牛を互いに納得した上でそれぞれの持ち主に分け、それから焼印を押すという、無用な争いを後に残さないためなのだが、逆にランド・アバウトの時に多勢に無勢が作用することになった。

ともかく、ケイトはその法律を遵守し、焼印を春のランド・アバウトまで待っていただけのことだろう。だから、1889年春のランド・アバウトまで、ケイトの牛には“LU”ブランドは押していなかったことになる。

少しくどくなるが、ケイトがジョン・クロウダーから購入した牛は、ヨボヨボの痩せ牛だったと思われる。というのも、1887年の冬は西部史に残る異常な厳寒に見舞われ、ワイオミング全体で半分とも4分の3ともいわれる牛が凍死した。生き残った牛も、骨が皮を被っているようなボロボロ牛になっていた。被害はとりわけ大牧場主に大きかった。広大過ぎて目も届かず手も回らない地帯にばら撒かれた牛を、深い雪の中を集め、牧草を与えるのは不可能だったからだ。

ケイトは牛一頭に1ドル払っている。いくらヨボヨボの痩せ牛にしろ、異常な安値で購入しているのだ。よほど酷い牛だったのか、ジョン・クロウダーがケイトの夫ジェイムスの経営する雑貨屋、バーに何がしかの借金があり、それを相殺するため牛を手放したのか分からない。だが、その28頭のうち何頭かが妊娠しており、1889年の夏の財産目録では41頭になっている。増えた13頭がすべて子牛だったかどうかハッキリしない上、“LU”ブランドが押されていなかった。それが問題を呼ぶことになる。

この13頭が子牛なのか、1年以上経った牛だったのか、牧畜捜査官ジョージ・ヘンダーソンのレポート、本に記述がない。だが、ジョージは彼の雇い主ジョン・クレイに、ケイトがブランドを押していない牛を所有していると報告している。付け加えて、“LU”ブランドを押してある牛も近所から盗んできた牛に違いない、というのは焼印がいかにも新しいから…と、はじめから疑ってかかった警察が、状況証拠と推測で事態を観てしまうような報告をしている。

ジョン・クレイは、捜査官ジョージをケイトの牧場に送った時点で、ケイトとジェイムスを吊るすことを決めていたのだと思う。捜査官ジョージを送ったのは何らかの理由付けが欲しかっただけだろう。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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