■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]




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第53回:ミーカー銀行強盗の怪

更新日2007/10/25


ヒマに任せてのめり込むようにアマチュアの一好き者探索家として、現地を訪れ、古い文献を取り寄せ、ブッチ・キャサディを中心に西部アウトローの史実をそれなりに調べていて困ることは、あまりに伝説や思い入れのこもった文献が多く、その中から事実が湧き上がってこないことである。面白くて、さもありなんといった逸話は読み手の想像力を掻き立てはするが、往々にして事実からかけ離れていたりすることが多い。語り継がれてきた伝説には、それを語ってきた人々にとって真実であり、我々にいきいきとしたイメージを与えはするものの、史実との差は歴然と残るのだ。

西部アウトロー史上最高の人気者ブッチの場合は、それでも研究?が進んでおり、充分にフルイにかけられた史実を抽出することができるが、「ミーカー銀行強盗事件」のような、ワイルド・バンチの小者による亜流の事件となると、真剣に取り組む歴史家がいないのだろう、事件全体が深い霧に包まれているのだ。

ミーカーは、2000年の国勢調査で人口2,242人の町だが、事件の起こった1896年当時、インディアンを数えずに人口500人内外の牧畜の農村だったと思われる。そんな村にも独自の新聞があったことは驚きだ。一応4ページ刷りで全国ニュース、ローカルニュース、宣伝も載せ新聞の形態は整っている。ミーカーの新聞“The Meeker Herald”が事件の起こった4日後、17日付けで詳しく事件の模様を報道している。

そのミーカー・ヘラルド紙によると、犯人グループのリーダー格はチャールス・ジョーンズ、年齢45歳くらい、身長5フィート8インチ、体重155〜160ポンド、黒髪で頭のてっぺんはハゲとあり、他の詳細な体の特徴、衣服などを描写している。

従犯のジョージ・ハリスは、推定年齢35歳、5フィート9インチから10インチ、体重約180ポンド、赤みがかった頭髪、黄土色の口ひげ、頑丈な体格とある。もう一人の従犯はビリー・スミスという名の推定年齢21歳、身長5フィート7、8インチ、体重150〜155ポンド、濃い髭で顔全体が覆われており、髪は黒と記されている。

当時、とりわけアウトローの間では誰もがあだ名をいくつも持っており、、陸の孤島のようなミーカーで犯人の本名を割り出すことが不可能だったことは分かる。しかし、主犯とされているジョージ・バイン、通称ジョージ・ロー、新聞ではチャールス・ジョーンズと命名されている人物は年齢45歳と推定された。ジョージは当時19歳だったから、新聞で言う45歳の主犯格とはあまりに年齢が違いすぎる。体形、特徴は一致し同一人物と見てよさそうだが、19歳と45歳を見違えるものだろうか。 従犯のハリスも実際には20歳だったが、35歳と新聞にあり、年齢査定にそれほど狂いが出るものだろうかという疑問が湧く。

アウトロー史家は史料として当然この新聞、“The Meeker Herald”を調べていたことだろう。犯人グループ以外の人物、銀行員、ヒューガス商会の店員、そのほか銀行に預金に来ていたホテルの従業員、店にいたお客などの名前、また犯行現場の状況などは、この新聞が唯一の史料と言ってよいし、後の史家が書いたものはすべて、この新聞記事の焼き直しだ。だが現代のアウトロー史家はミーカーの新聞記者が持つことが出来なかったワイルド・バンチの面々の系譜を知っており、主だったアウトロー達の家系図をかなり正確に確定している。そこから割り出したミーカー銀行襲撃犯人の名前、出身、生年月日は信頼できそうだ。

小さな村の新聞は、その村の住人の情報は容易に取ることかできるが、流れ者、よそ者の情報となると雲を掴むような話だったに違いない。事実、この銀行強盗はブッチと一緒にテリュライドの銀行強盗を働いたトム・マッカティーがやったと、まことしやかに語られていた。

当時人物を固定し、身元を判明させる唯一の手掛かりは、顔、身体の傷、髪の毛の色と状態、身長、体重、骨格、目の色で、そんな描写を電報で(ミーカーには電報すらなかった)大きな町の保安官事務所へ送り、その保安官事務所に犯罪者またはお尋ね者として、偶然にも身体の特徴が一致する人物の記録があって初めて人物が推定できた。

親、兄弟、妻が検死に応じることはまずなかったので、射殺された犯人に逮捕歴があれば、その土地の保安官や刑務所の看守、よく出入りしていたサロンバーのバーテンダーなどが呼び寄せられ、死体を確認した。それも大者の場合に限られていた。 

現代のアウトロー史家が持っている系譜などは、当時のミーカーでは持ちようがなかったのだ。

年齢査定のギャップの大きさは、経験を積んだ検死医の居ないミーカーで、何日後かは不明だが、数日後に郡から派遣されてきた検査官が行ったことによるものではないかとみている。殺された犯人3人は町中で見せしめと、この町で犯罪を犯そうとしても無駄だという示威行為のため、数日間曝されていた。何十発もの銃弾を全身や顔に受け、血を流しきって死に、幾日かサラシ者にされた後で不慣れな検査官が年齢査定をし、19歳を45歳としたのではないかと想像している。

しかし、本物のジョージ・ローが、事件とは無関係に生き延びていた可能性を打ち消すことはできないでいる。殺されたアウトローは誰かという謎は、アウトロー史にミステリーがかった空想の世界を広げてくれる。

-つづく

 

 

第54回:マッカティー一族 その1


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