第51回:Butch Cassidy_キャスル・ゲイト その2
更新日2007/10/11
犯行にはブッチ、エルジー、ボブ・ミークス、ジョー・ウォーカーの4人がかかわっていたと見るのが定説だ。実行犯はブッチとエルジーで、ジョー・ウォーカーは電信線の破壊、ボブ・ミークスは逃走経路にある馬のリレー地点でフレッシュな馬を確実に確保し、捜査網がどこまで迫っているのか、どのように展開しているのかなどの後方情報担当補佐官の役を担っていたと思われる。
給料が届いたというサイレンは、両刃の刀のようなものだ。この合図で鉱夫だけでなく、強盗団も給料を積んだ現金輸送列車が到着したと確実に知ることができるのだから。そのサイレンが鳴ったのは2日後の4月21日水曜日、12時40分だった。
ブッチは列車を襲うのでもなく、事務所を襲うのでもなく、現金が列車から鉱山事務所まで運び込まれる、距離にして60メートルの最後の過程、狭い階段を昇って事務所に運び入れようとする瞬間を狙った。鉱山事務所は雑貨屋の2階にあり、下の方が末広がりになった階段で外から直接事務所に出入りできるようになっていた。

鉱山事務所の階段。
この階段でブッチがカーペンターに拳銃を突きつけ
プレゼント峡谷鉱山会社の給料を奪った。
鉱山事務所の建物は取り壊され、
階段だけがヘルパーの町の博物館の地下に
歴史的遺物として鎮座している。
主任会計士のカーペンターと事務員ルイスが現金の入った袋を担ぎ階段を上り始めたとき、階段に座っていたブッチがいきなり銃口をカーペンターの鼻先に当て、袋を手渡すように要求したのだ。しかもにっこりと微笑みながら。
カーペンターは、襲撃者が最近この界隈をうろついていたカウボーイの一人であることを認めている。ルイスの方はライフルを取りに行こうとしたのだろう、事務所に駆け込込もうとしたが、階段の直ぐ下で馬に乗っていたエルジーが拳銃を抜き、「動くんじゃない、さもないとお前の腹は熱い鉛の玉で満腹ってことになるぜ」と牽制した。カーペンターは何の抵抗もせず金貨の詰まった袋をブッチに手渡したのだった。それに対してブッチはまたも微笑みながら、「サンキュー」と言った……ことになっている。カーペンターもルイスも呆然自失の状態で、ただただ呆気に取られたのだろう。
金貨の袋が重く、ブッチは馬の背に縛り付けるのに手間取っていたが、ブッチとエルジーはあっさりと現金の詰まった袋と共に馬で走り去ったのだ。まさにブッチとエルジーの絶妙のコンビが作り出した、芸術的とさえ言われているこの襲撃は10秒とかからなかった。

哀しくなるほど下手糞な襲撃の模様の想像画。
キャスル・ゲイトの狭い一本道はかなりの人通りがあったが、馬で飛ばしてくる二人組みを唖然と見送るだけだった。鉱山事務所は恐慌に陥っていた。何年も使ったことない散弾銃を持ち出し、逃走中の犯人を撃とうとしたが、1発目は不発で、2発目を構えたときはブッチとエルジーはすで800メートル以上も離れており、弾の広がる散弾銃の射程ではなくなっていたし、一本道にいる他の人に当たる可能性の方が高く、結局2発目は撃たずしまいだった。

ブッチ襲撃後、給料日にはこのような厳戒態勢をしくようになったが、
後の祭りである。もちろん二度と強盗事件は起こらなかった。
プライスへの電信が不通になっていることを知らされたカーペンターは、地元の保安官ガスを無視して、停車場にまだ止まっていた列車に駆けつけ、すべての車両を切り離し、機関車だけでプライスの町へ行くように機関士に強要したのだった。プライスへは20キロほどの下りなのでブッチとエルジーの先回りをして町に着くことができると踏んだのだろう。プライスはカーボン郡の首都で郡の保安官もおリ、即座に追跡団を組織できるし、二人組みが町を通り抜けようとするなら、その場で逮捕できる可能性があると踏んだのだろう。
カーペンターの判断はブッチ以外の犯罪者には当てはまったかもしれないが、ブッチはカーペンターの動きを読み、裏をかいた。キャスル・ゲイトから二人組みは距離を稼ぐためスプリング・キャニオンまではメインの街道を下り、プライスへ真っ直ぐ向かったと思わせておき、そこから急に山道に逸れ、二つの町、ヘルパーとプライスを迂回し、ゴードン・クリークで馬を乗り換え、着替えまでして南下したのだった。
このシゴトの決算は、総額9,860ドル、内訳は金貨で7,000ドル、紙幣2,000ドル、銀貨860ドルだった。860枚の1ドル銀貨がどれほどの重さになるのかわからないが、重すぎて逃走の邪魔になると判断し、置き去りにしている。また、ブッチはキャスル・ゲイトのバーで4本のウイスキー“Old
Crow”をツケで買った代金として、後にそのバー宛に10ドルを送っている。
仲間のボブ・ミークスの従弟でブッチに良い馬を提供したジョー・ミークスは、体面からかクリーブランドで追跡団に参加し、他の町から駆けつけた追跡団と同士討ちになり、太腿に銃弾を受けたが、ブッチはそれに対しても30ドルの慰労金を送っている。これらがキャスル・ゲイトのシゴトの特別計上経費だった。
ブッチとエルジーはサンラファエルの荒地を抜け、ユタ州の南にある古巣ロバーズ・ルーストに逃げ込んだのだった。追跡団は2週間ほど無駄な捜査をした末、打ち切られた。
…-つづく
第51回:一つの鮮やかな成功は常にモノマネザルを呼ぶ

