第50回:Butch Cassidy_キャスル・ゲイト その1
更新日2007/10/04
ロバーズ・ルーストで過ごした冬、ブッチとエルジーはブレインストーミングよろしくシゴトをあらゆる角度から検討したに違いない。白羽の矢を立てたのは、ユタ州のほぼ中央の山間にある炭鉱町、キャスル・ゲイトだった。
この襲撃地は今までのとは違い州境からは遠く、隣のワイオミング州やコロラド州に容易に駆け込める地の利はなかった。それどころか逆に深い谷の底に山道が一本走っているだけで、逃走にはおよそ不利な地形だった。ブッチはあえて意表をつくようにそんな炭鉱町を狙ったのだ。

キャスル・ゲイトの名は、峡谷の両サイドに聳え立つ
城のような岩から由来している。現在、ハイウェー6号線が
峠を越えソルトレイクシティまで抜けている。
キャスル・ゲイトは、狭い峡谷に張り付くように鉱夫たちの家が積み重なっている石炭鉱山の町で、炭鉱はデンバーリオグランデ鉄道の子会社、プレゼント峡谷炭鉱会社が所有し、会社が鉱山だけでなく町そのものの実権を握っていた。住人は全員何らかの形で炭鉱会社の影響下にいた。鉱夫たちの給料は2週間に一度支払われることになっており、現金はソルトレイクシティから列車で輸送されていた。
会社側は、この輸送にかなり神経を使っており、列車強盗対策として定期的な輸送日を設定せず、不規則なスケジュールでこの炭鉱町へ現金を輸送していた。ソルトレイクシティからの列車は、ソルヂア峠を越えなければならず、列車のスピードが極端に落ち、その上り坂が列車強盗のかっこうの的になると懸念したのだった。
現金が着くと、炭鉱でダイナマイトを爆破させる時に使う警報用のサイレンを鳴らし、鉱夫たちに給料を支払う旨知らせた。山から降り、給料を受け取った鉱夫たちは、3マイル下ったヘルパーの町に繰り出し、発散、散財したものだった。
キャスル・ゲイトは、炭鉱閉鎖と共に跡形もなく消えたが、ヘルパーの町はまだどうにかゴーストタウンにならずに残っている。それにしてもメインストリートの店の半数以上は閉店しているか、売りに出されている。
この町には日本人の炭鉱夫が、主に九州から何百人と入っていた。日本人の寄り合いもあれば、子供たちのための日本語教室も開かれていた。墓地は町の南東の山の裾にあり、ギリシャ人、イタリア人らアメリカに遅れてきた移民たちの墓石の中に意外にも達筆に彫られた日本人の墓石が残っている。

この地下に日本人学校があった。

ヘルパーのメインストリート。ゴーストタウンの一歩手前だ。
現在、キャスル・ゲイト鉱山は閉鎖され、昔を偲ぶものは何も残っていない。キャスル・ゲイトを見下ろすハイウェーの高台にブロンズのプレートがあり、ブッチとエルジーがここで強盗を働いたと刻んであるだけだ。
直ぐ隣町のヘルパーには、この町にしては立派過ぎるほどの博物館があり、主に鉄道(ヘルパーという名前自体、汽車が急な斜面を登るときに機関車を3、4連結したが、その"助っ人"機関車をヘルパーと呼び、そこから町の名前が付いた)と炭鉱の博物館だ。
その地下をアウトロー、ブッチたちのキャスル・ゲイト襲撃の展示に宛てている。とはいっても展示物はどこにでもある"お尋ね者"のポスターなどだが、一つだけキャスル・ゲイトの炭鉱事務所へ昇る階段の一部を外してきて、歴史的構築物のつもりだろうか、展示してある。この階段にブッチは腰掛け、現金輸送列車から事務所へ運び込まれる現金を待ち受けていた……ことになっているのだ。
キャスル・ゲイトは100%炭鉱の町だ。この狭い町では馬を見ることさえ少なく、鉱山関係以外の人間は存在しなかった。皆がみな何らかの形で鉱山に絡んでいた。そんな中でカウボーイ姿のブッチとエルジーは目立だったことだろう。彼らは4月19日、月曜日にあえて馬に鞍を置かず、裸馬に乗って事前調査のために町に乗り込んだ。
馬にこだわるブッチは馬体の大きな灰色馬に乗り、一本しかない通りを行きつ戻りつ下見偵察をした。西部のどんな田舎町でもギャンブルの競馬が盛んで、娯楽のない炭鉱の町も例外ではなかった。少しでも負荷を軽くしようと競馬は裸馬で行われるのが慣わしだったので、ブッチとエルジーは、競馬をオーガナイズするために町を裸馬に乗り徘徊していると思わせようとしたのだ。
いつものことだが、ブッチとエルジーは事前の調査と準備に周到を期していた。今回も逃走路に数箇所馬のリレーポイントを設定し、最良の馬を待機たせてあった。ブッチが乗っていた灰色の馬は、モンペリエー銀行襲撃のときの仲間ボブ・ミークスの従弟ジョー・ミークスの牧場で手に入れたもので、まだ充分トレーニングされていなかったが、荒地を駆け抜ける強靭さを持っていた。放牧地で育ち、人ごみや町中、そして何よりも機関車やサイレン、ダイナマイトの爆発音に慣れていない馬を、ブッチはキャスル・ゲイトの町中を乗り回し、機関車の近くを行き来させることで訓練したのだった。
線路沿いに走る電信線を切断する手はずも整えてあった。しかも電信回路を検討し、追跡団が組織されると予想される町プライスとクリーブランドへの通信網を時間を示し合わせて破壊することにしたのだった。
狭い山間の炭鉱町で馬を飼うのは、とても費用のかかることだ。炭鉱夫たちの多くは出稼ぎに来ている日本人、ギリシャ人、イタリア人などの外国人で、馬とは生涯縁のない人たちだった。すでに鉄道が来ていおり、貨物の輸送はすべて列車が行っていた。
キャスル・ゲイトにも、保安官は居るにはいた。ブッチがこんな事件を起さなかったら、無能のシェリフとして歴史に恥を残さずに済んだであろうガス・ドナンテ(Gus
Donant)という男で、会社側は保安官ガスが役に立たないので、更迭するよう郡に交渉している最中だった。
ブッチはこの無能保安官ガスのことも、またキャスル・ゲイトに追跡団を組織するだけの馬も、乗馬に長けた乗り手も居ないことを見越していたに違いない。
…-つづく
第51回:Butch
Cassidy_キャスル・ゲイト その2

