第49回:Butch Cassidy_1986年の冬
更新日2007/09/27
銀行強盗、列車強盗にも旅行のようにハイシーズン、オフシーズンがあったことは前に書いた。全西部銀行列車強盗会議の後ブッチグループはブラウンズパークに散り、鳴りをひそめた。
アメリカの祭日にサンクス・ギビングというのがある。アメリカに到着した清教徒移民団が一年目の収穫を祝ったのがその始まりで、サンクス・ギビングは本格的な冬に突入する日であり、その日からはクリスマスまでを指折り数えて待つだけの長い夜の日々が続くだけになる。サンクス・ギビングにはお決まりの七面鳥の丸焼きが供される。収穫祭だから、親戚一同だけでなく、小さな村なら村民全員が集まる会食になることも珍しくなかった。
ブッチたちが集まったのはバッセット家で、その年のサンクス・ギビングパーティーの模様をアン・バセットがマックルアーに語っている(Bassett
Women by McClure)。ブッチはエルジーなど数人を引き連れてバセット家を訪れ、恐らく久しぶりであったろう家庭料理で大きな食事を楽しんだ。アンは、ブッチがしきりに台所を手伝おうとしたが、ブッチは台所では全くの役に立たずで、それならばとコーヒーを入れ、皆にサービスするように頼んだところ、ブッチはコーヒーをそこらじゅうにこぼし、皆の失笑をかったとユーモラスに語っている。
ブラウンズパークの厳しい冬を逃れ、ブッチたちはユタ州南のロバーズルースト峡谷でその冬を過ごした。ブッチはエルジーと新婚早々の妻マウドと共にロバーズルースト峡谷でテント暮らしを始めた。この年、ロバーズルーストにはボブ・ミークス、ブルー・ジョン・グルフィス、そしてサンダンス・キッズも居たと、後年マウドがに娘に語っている。そのマウドの話の中に、ブッチはその冬一人の女性と一緒で、そしてその女性はエッタ・プレイスだと確信に満ちて語っているのだ。

エッタ・プレイス、1901年にニューヨークで撮った写真。
サンダンス・キッズの愛人。丸顔に深く沈んだ目を持つ美人だ。
話は古いが、谷崎潤一郎が佐藤春夫の妻を譲り受け?事件が文壇を賑わしたことがあった。秘められた三角関係とはせずに、両者とも一種の声明文を発表し、いわば公明正大にトリヒキをしたのだ。この話が古過ぎるならエリック・クラプトン(イギリスのロック・ギターリスト)は、ビートルズのジョージ・ハリソンの奥さんと結婚し、その後もエリック・クラプトンとジョージ・ハリソンは一緒に演奏活動を続けている。
1896年の冬、ロバーズルーストでブッチと一緒だった女性が、後にサンダンス・キッズの愛人となり、3人連れで南米まで行ったのがエッタ・プレイスだった可能性はある。多くのアウトロー学者は1896年の冬、ブッチの元にいたこの女性がエッタであったかどうか懐疑的である。それならば誰だったのか、バセット家のアンではなかったかという意見が多いが、確証はない。
確かにアンは向こう見ずな冒険好きな性格を持ち、後にクイーン・アンとして知れ渡たったようにアウトローの生活を送ったので、アンがブッチの居るロバーズルーストに飛び込んで行った可能性が高いというのだ。いずれにせよ、アン、エッタ、ブッチに直接訊くことができない今、一冬の女性が誰であったか証明することは不可能なことだ。

アン・バセット。
東部の全寮制の女学校で教育を受けたにもかかわらず、
ブラウンズパークに戻ってから、アウトローシンパとなり、
自らも牛や馬の泥棒にかかわっていた。
この写真がいつ撮られたものか不明だ。
恐らくは東部から持ち帰った羽根付きの帽子をかぶっている。
もう20世紀に入ろうという世紀末になっても、西部ではとりわけ大きな町から一歩離れると女性の数は極端に少なかった。はっきりとした男女の比率などは分からないが推定で5対1くらいだったと言われている。そのような不均衡はどんな動物の世界でも闘争を生むものだ。
カウボーイたち、金山銀山や炭鉱の鉱夫たち、フロンティアに詰める騎兵隊など、いずれも男だけの世界だった。一夫多妻とは逆の一妻多夫は珍しいことではなかったし、メインストリートが一本走るだけのちっぽけな町にも必ず娼婦がたむろするサロンバーがあり、血走った男どもの欲求を満たしていた。若い女性の誘拐売買も行われていた。
娼婦は当然のことだが、自分の過去を語りたがらない。結婚し子供や孫ができるとことさら、私はどこそこで娼婦だったとは言わないものだ。そしてアウトローたちが付き合っていた女性の大半は娼婦だった。アン・バセットやエルジーと結婚したマウド・デイビス、マットと結婚したローズなどは例外中の例外といってよい。
ブッチは1896年の冬、"謎の女性"と過ごし、春が訪れるとともに、シーズン到来とばかりに、本業の銀行列車強盗に乗り出していった。
…-つづく
第50回:Butch
Cassidy_キャスル・ゲイト その1

