第44回:Butch Cassidy_アイダホ州・モンペリエー その2
更新日2007/08/23
すべてを焼き尽くすような暑さの下で昼寝から覚めやらぬ中西部の町、モンペリエーの銀行が襲われた。1896年8月13日の午後3時13分のことだった。
折から牧草刈りのシーズンの真っ最中で、町の中央に1本走るワシントン通りに人影もまばらだった。この銀行は、午後3時30分に閉める慣わしだった。
銀行内には主任キャッシャーのグレイ(E. C. Grey)、アシスタントテーラーのバッド (A. N. "Bud"
Mackintosh、Pattersonの本ではスペルが違いMcIntoshとなっている)、それに二人の客、エド(Ed
Hoover)とモンペリエーの町議会委員であるウィリアム(William Perkins)がいた。この4人の証言から、どのように銀行強盗が行われたか、かなり明確に知ることができる。
覆面をした二人の男、ボス格の一人は明るい頭髪(ブッチであることは確実)で、銀行のドア付近から全体を統率するように、銃口を客二人に向け、壁に顔を向け両手を高く上げ、いわゆるホールドアップの姿勢を取らせ、もう一人の黒い髪の毛の細身の男(エルジイ)が鉄格子の張ってあるカウンター越しに銀行員のバブに銃を向け、袋に有り金全部入れるように指示した。
バブが、「金はこれしかない」と、カウンターの下に手を入れようとしたのに対し、エルジイは、「この嘘つき野郎!」と、拳銃の台尻で頭を殴りつけた。銀行員二人とお客二人ともども驚いたことに、ボス格(ブッチ)がその時、「銀行員に怪我させるんじゃない!」と、黒髪(エルジイ)に叫んだのだ。こんなところがブッチファンには堪えられないのだろう、襲われた側でさえ、ブッチに悪感情を持つことがなかった。
ブッチもエルジイもこの襲撃の間、冷静だった。エルジイがバブを殴ることで牽制したのは、結果的に見れば正解だった。バブはカウンターの下に銃弾を込めたウィンチェスターライフルを隠し持っていたからだ。銀行員のバブの方が恐怖で取り乱していた。あっさりとライフルを取り上げられ、ありったけの現金をエルジイの差し出した袋、馬車屋のフリッツから譲り受けた例の袋に詰め込んだのだった。
エルジイの方が先に銀行を出、待機していたボブ・ミークスと、このために準備した積荷用の馬に戦利品をしっかりと縛りつけた。その間、ブッチは銀行内に留まり、4人を抑えていた。外からの合図の掛け声で行内を牽制しながら、ドアの前までボブが連れてきた馬に飛び乗り、3人組は走り去ったのだった。時間にして10分以内のシゴトだった。
テリュライドの時とは異なり、ブッチとエルジイはマスクをしていたが、外で待っているボブ・ミークスは覆面をしていなかった。もし外で3頭の馬を従えて、覆面の男が銀行の前にいたなら、"只今、銀行強盗の最中です"という看板を掲げているようなものだ。ボブにとって不幸なことに、行員のバブが窓を通して逃走馬を確保していたボブ・ミークスの顔を記憶に刻んでいたのだ。
この居眠りをしているようなモルモンの田舎町にも、一応シェリフがいるにはいた。モルモン教徒の自作農が住民の大半を占めるモンペリエーのような町には、暴力、殺傷事件は皆無に近く、シェリフは月10ドルのパートタイマーで、法律上の書類の整理が主な仕事だった。それでもこのパートタイムシェリフ、フレッド(Fred
Cruickshank 、本業は雑貨屋の店員)は、滑稽なほどよくやった。
まず、自転車、といってもこの時代に出始めた前輪が馬鹿でかく、後輪が小さい例の元祖自転車にまたがりブッチたちを追跡しようとしたのだ。漫画チックではあるが、彼の気構えは評価してもよいのではないか。もちろんブッチたちはすでに悠々と水平線に消えた後だったが。
自転車での追跡は不可能だと知るや、パートタイマーシェリフのフレッドは、郡の首都パリスに連絡し、本当のシェリフ、デイヴィス(M.
Jeff. Davis) とマローン(Mike Malone)に出動を要請したのだ。
このあたりから色々な話しが飛びかい、噂とゴシップ記事に事実が隠れてしまう。二つの新聞『Idaho Daily
Statesman』と 『Montpelier Examiner』が競って裏付けのないセンセーショナルな記事を書き散らしたからだ。8月15日のMontpelier
Examinerはレポーターの談話として、追跡団が放った2発の銃声を聞き、銀行強盗の二人は死亡したと書き、Idaho
Dailyの方は、主犯はトム・マカーティー(ブッチ、マットとともにテリュライドで強盗を働いた)で、スターヴァリーに隠れていると書きたてた。
トムはすでに50歳を越えており、30歳そこそこのブッチ、エルジイといくらバンダナで顔半分を隠していたにしろ20歳の年齢差を見間違えることはないはずだが、ゴシップや根拠のない噂も繰り返されると真実になるのだろうか、このモンペリエー銀行襲撃は、長いことトム・マッカーティーのシゴトだとされていた。
追跡は二手に別れ、デイヴィスの率いる追跡隊はトムの拠点、ワイオミング州のスターヴァリーに向い、マローンの方はユタ州のトマスフォークに向かった。自転車のフレッドはモンペリエーに残り、情報センターの役割をしていた。
周到な計画、準備をしていたブッチたちは馬をリレーし、2、3時間眠っただけで逃亡を続け、雲隠れしてしまったのだ。
さて、モンペリエー銀行の成果だが、これもハッキリしない。当初、5,000ドルと発表されたが、後日、7,165ドルに訂正され、さらに16,500ドルに増えたのだ。ブッチたちの首に掛かった賞金も、当初500ドルだったのが、2,000ドルに引き上げられた。お尋ね者の首に賞金を掛けるのは当時、西部では効果のあるやり方だったし、大掛りな追跡団を長期に渡って組織するより安上がりだった。
…-つづく
第45回:Butch
Cassidy_友人マットを救え

