第43回:Butch Cassidy_アイダホ州・モンペリエー その1
更新日2007/08/16
自分のためにには動かないが、他人のためには身を惜しまずに働くタイプの人間がよくいる。自分の範疇に家庭も含め、家のことは何もしないのに、人助けがナライゴトになったかのように、急に腰が軽くなるタイプだ。ブッチはどうもその極端な延長上にいたようだ。まして一緒に危険をかいくぐってきた者同士が分かち合える友情、信義には非常に篤いものがあったことは想像できる。
「武士に二言はない」と言うべきか、「インディアン、ウソつかない」の向こうを張ったと言うべきか、ブッチは拘置所のマットに約束したとおり、大金を都合してきた。エルジィともう一人ホースクリーク時代に近くの牧場で牧童をしていたボブ・ミークス(Henry
Wilber"Bub" Meeks)という若者を誘い込み、アイダホ州モンペリエー(Montpelier,
Idaho)の銀行を襲ったのだ。

Henry Wilbur "Bub" Meeks
彼もブッチ同様モルモンボーイだった。
ララミー刑務所から出所して7ヵ月しか経っていない、1896年8月13日木曜日のことだった。
ブッチはマット逮捕後、マット救済を契機に本格的アウトローの道を突っ走ることになる。
モンペリエーの町はアイダホ州の南東の片隅、ユタ州まで26マイル、ワイオミング州までの15マイルの距離にあり、北に迫るカリブー国有林と南のカッチェ国有林とに挟まれた谷沿いにある、今も当時も小さな町だ(現在でも人口2,658人の町である)。1865年のモルモン教徒によって開かれたこの瀟洒なフランス風の名前が付けられた村の特徴は、どこの町とも非常に離れていることだった。
そこへ、東部とオレゴンを結ぶ鉄道が通り、一挙に成長し、一軒だけだが銀行まで持つ町になったのだった。今は東西に走る州道30号と南北に走る89号がモンペリエーで交差している。両方のハイウェーとも谷あいや森を縫い、北米大陸の澄んだ空気を味わいながら快適なドライブを楽しむことができる道路だ。ナショナル・ジオグラフィック誌でも、ハイウェー89号をメキシコからカナダまで抜ける旅行探索記事を載せている。
恐らくブッチは、この孤立した州境の町モンペリエーを知っていたか、通過したことくらいはあったに違いない。モンペリエーに白羽の矢を立てたのはワイオミング、ユタに非常に近いという地理的条件と、モルモン教徒の開拓部落が発展しただけの平和な町に専任シェリフが居ないことも調べ上げていたことだろう。
実際モンペリエーの町で事件らしい事件なぞ起こったことがなく、ましてや暴力沙汰とは縁がなく、ブッチたちが襲ったコロラド州の荒っぽい金銀鉱山の町テリュライドとは全く赴きを異にする町だった。
ブッチ、エルジィ、バブの3人は、ワイオミング州コクヴィル(Cokeville)の北8マイルにあるボールダー(Boulder)の牧場に3人丸抱えで牧童の仕事に就いた。モンペリエーから20マイルほどの距離である。
この牧場の持ち主は小さな宝石屋をモンペリエーで営むエミル(S.P. Emell)で、週末だけ牧場に帰る副業的な牧場経営をしている人物だった。主に牧場を管理していたのは夫人のほうだった。折から8月の牧草刈りの季節で、猫の手も借りたい忙しい時期だったから、3人組を即座に雇ったのだった。
3人はジョージ(George Ingerfield)、ウイリー(Willie McCuiness)、マーティ(Marty
Makenie)という偽名を使った。ここでもエミル夫妻は最大級の賛辞でこの3人組の働きぶりをほめている。と同時に流れのカウボーイにしては馬具やライフル、ピストルが立派だったし、休日には朝早くから遠出をしていたと語っている。
<<Hayden,“Cassidy And Montpelier Robbery”による>>
3人組はモンペリエーの町にも何度か乗りつけ、雑貨屋で買い物をしている。雑貨屋の親父は3人組をこの谷で間もなく始まる羊の毛を刈り取る仕事を求めて歩いている流れ者だと思ったと述べている。この親父も3人組の装備、持ち物が立派なことに目を奪われている。
<<Wilde,“Treasured Tidbits of Time”による>>
3人組はエミルの牧場で働きながら、シゴト前の事前調査もおさおさ怠りなく済ませ、逃走ルートを選択し、交換リレー馬の隠し場所を設定し、チームの役割を決めていた。
モンペリエーで運送業をしているフリッツ(Fritz Teuscher)は、馬車で町へ帰る途中に3人組と出会っている。その時、馬車の後ろに下げてるキャンバス袋に目を留めたブッチが、フリッツにその袋を譲ってくれないかと持ちかけたのだった。フリッツが一体何に使うのか尋ねたところ、ブッチは、「お前さんが知りたがるのも無理からぬことだが、俺たちはこれからモンペリエーの銀行を襲うので、お金を詰め込む大きくて丈夫な袋が必要なんだ」と答えたと言うのだ。
もちろんフリッツは冗談だととった。フリッツは、「それじゃ使い終わったら、俺はジェノヴァに住んでいるから、そこへ持ってきてくれればいい」と言って袋を渡したのだった。
<<Wilde, “Treasured Tidbits of Time”による>>
…-つづく
第44回:Butch
Cassidy_アイダホ州・モンペリエー その2

