第42回:Butch Cassidy_我が友、マット
更新日2007/08/09
バセット家の娘、上のジョージーと下のアンは突如帰ってきたブッチに今まで二人で競うように寄せていたエルジィへの想いは混乱させられた。
というのは、丁度時期を同じくして、エルジィの方がマウド・デイビス(Maude Davis)という22歳になる牧場主の娘と激しい恋に落ち、彼女を連れてブラウンズパークのマットのキャビンへ帰ってきたからだ。エルジィはLady's
Manではあったが、決してプレーボーイではなかった。
エルジィがマウドを伴侶としてブラウンズパークに帰ってきたので、バセット家の娘たちの焦点はブッチに絞られたのだ。隣人は二人姉妹がブッチをめぐって掴み合いの激しい喧嘩を目撃したとと書き残している(Bassett
woman, by McClure)。
西部開拓時代の女性はなかなか激しいのだ。だが、この二人姉妹にブッチがどのような感情を持っていたか知ることはできない。ブッチはいくつか残っている手紙にもあるように、自分の生き方は特定の女性と家庭をもつことには、およそ不向きであり、長い期間にわたる深い関係を極力避けようとしていたようだ。
"朱に染まれば赤くなる"ようにジョージーとアンは立派なレディーアウトローに成長した。ジョージーは生涯ブラウンズパークに住み、90歳を過ぎるまでカウガールの生活を続け、アウトローを積極的に助け、自らもアウトロー道を歩んだ。一方、アンの方は活躍の場を広げ、牛馬泥棒仲間から"クイーン・アン"と呼ばれるほどの存在になり、ユタ州のセントジョージで1958年まで生き、そこで死んだ。
マットはヴェナルにいる妻ローズのもとへ足繁く通い滞在するので、マットの牧場はブッチとエルジィ・レイ、そしてマウドの3人で管理していたようなものだったろう。
ブッチ、マット、エルジィは三者三様に金詰りになっていた。ブッチはララミー刑務所を出たばかりで、マットの牧場でどうにか食べいるだけだったし、マットはローズの手術、入院、ヴェナルの町でローズのために借りている家や生活費に負われていた。エルジィもフォート・ドチェスンに共同で持っていたサルーンバー、地元の人に"地獄のギャンブルサルーン"と呼ばれていた酒場が手入れを喰らい、閉鎖しなければならなくなったのだ。
この手入れの原因となったのは、偽札がその酒場を中心に出回っていたことだった。偽札造りやその流通に手を貸すことは、合衆国政府が乗り出してくる一大事だった。殺人、強盗よりもはるかに追及が厳しいことだった。そんな偽札が2,000ドルもエルジィの酒場で発見されたのだ。この件で、エルジィは証拠不十分で最終的には検挙すらされなかったが、何らかの形で偽札流通に手を貸していたと、私はみている。
というのは、その後ブッチと組んでカナダで印刷された偽ドルを運び込むシゴトを始めたからだ。ヴェナルの西にあるハーフウェイ・ホローの牧場主ヘンリー・リー(Henry
Lee)の元まで運び、何がしかの割前を貰う、一種の運び屋を二人でやっていたのだ。ヘンリー・リーは、その贋金を二つのインディアン居留地、ユニータとユウレイを経由してさばいていた。
後のブッチとエルジィの行動を見ると、自分たちのためというより、経済的に緊迫していたマットとローズを救うために危ない橋を渡っていたと思われる。この贋金輸送業に携わったのは、非常に短い期間だった。
ブッチ独特の勘が働き、危険が迫っていることを感じとったのだろう、彼らが止めてすぐにヘンリー・リーが逮捕され、カナダからの贋金コネクションが潰れたのだった。ブッチが高価なピストルを購入できたのも、この贋金流通で儲けていたからだろう。
マットも金策に苦労していた。アウトローから足を洗う覚悟だったのが、ひょんなことから、鉱山を開発しているコールマン(E.
B. Coleman)という人物と知り合いになり、彼が開発したドライフォーク近くの金山へ一緒に行き、機材を運び出すのを手伝いってくれるなら、100ドル進呈しようともちかけられ、それを受けたのだ。
だがその話しには裏があり、鉱山開発に関わっているのは、コールマンだけでなく、競争相手のデイブ(Dave Milton)と彼の手下アイクとディックの兄弟(Ike
& Dick Staunton)が絡んでおり、拳銃の腕が立つマットにガードマンになってもらおうというのがコールマンの魂胆だった。
コールマンとディヴィド・ミルトンの間には、鉱山を巡って以前から確執があった。お金に困っていたマットが、コールマンに上手く乗せられたといってよい。チャールス・ケリーの本とマットの自伝から事件を構成すると、撃ち合いは次のように起こった。
1896年5月7日の夜が明け、鉱山にキャンプしていたアイクが火を起こし始めたとき、馬が歩み寄る足音に気付き、テントにとって返し、ライフルでマットを撃った。が、弾はマットの馬を打ち抜き、マットはアスペンの林にどうにか身を隠し、迎撃を始め、テントの中でまだ寝ていたディヴィド・ミルトンの首と太腿に当たった。ディックは一旦テントの外に駆け出たが、あわててテントに引き返すときに撃たれ、テントの中に倒れ込んだ。すでに足に被弾していたアイクはウォールの撃った弾に鼻を吹き飛ばされ意識を失い、この戦いを終えたのだった。
恐らくマットは、このような撃ち合いになることを予想していなかった。しかし、アイクがマットの馬を撃ったことで、殺し合いにまで発展して行ったのだろう。マットとウォールは44口径のウィンチェスター連射式のライフルを持っていたが、アイクの方は旧式になりつつあった45口径の単発ライフルだったのが勝負を分けた。
マットはテントの中に駆け込むまで、銃撃を仕掛けてきた相手が旧知のディヴィドとアイク、ディック・スタントン兄弟だとは知らなかった。テントの中に倒れているディヴィドとディックを見つけ、マットは、「オー、マイ・ゴッド!
お前たちだと知っていたら、撃ちはしなかったのに」と叫び、それに答え虫の息のディビッドは、「お前の罪じゃないさ」と応えたと言う。
マットはすぐに応急処置をとり、出血を止めようとしたが、彼らはすでに大量の血を失っていた。同時に大至急で医者を連れてくるようウォールをヴェナルの町に送った。自分が撃った相手の命を救おうと必死だったのだ。
ウォールはヴェナルの町で実際、よく動き回った。ドクター・リンゼイ、ドクター・ローズ、ドクター・ホリングワースの診療所を回り、何とか彼らをドライフォークの現場に連れて帰ろうとしたが、いずれも体良く断られ、保安官詰め所に事件の報告と負傷者を運ぶ馬車を借りるため立ち寄っている。
シェリフのジョン・ポウプは不在で、22歳の弟マルセリウスが代理で詰めていたのを同行させ、マットと3人の負傷者がいるドライフォークに引き返してきたのだ。マットとウォールは3人の負傷者を牧草を敷き詰めた馬車に乗せヴェナルの町に戻ったが、その晩ディックが死に、次の日ディヴィドが息を引き取ったのだった。アイクは片足を失いはしたが生き残った。
ともあれ、この撃ち合いで相手側のディヴィドとディックが死に、アイクは重症を負い、コールマンとマット、彼らに同行したウォールが殺人で逮捕されたのだった。コールマンはすぐに弁護士を雇い、保釈金を払い、拘置所を出たが、マットとウォールにそんなお金はなく、コールマンも彼らの保釈金を払おうとしなかった。マットにとっては気軽なアルバイトのつもりが、殺人事件にまで発展してしまったのだ。
マット、ウォール、コールマンは即、殺人容疑で逮捕された。
ここから話は二つに分かれる。チャールス・ケリー(Charles Kelly、The Outlaw Trail)によれば、ブッチはユニータ拘置所のマットにすぐさま面会し、保釈金や弁護士のことは心配するな、すぐにお金を都合して、彼の旧知の弁護士ダグ・ペタソンを送ると慰めた……ことになっている。ブッチの面会は、シェリフのジョン(John
T. Popu)が許可し、立ち会っているので、この話は信用できるかもしれない。
もう一つのバージョンは、マット自身の回顧録で、マットがオグデンの拘置所に移され、2、3ヵ月も経ってから、出所する囚人に2通の手紙を託し、ブッチに"早くお金を都合してくれなければ死刑になる"と書き送り、そのおよそ1ヵ月後に弁護士のダグ・ペタソンが突如拘置所のマットに面会にきて、弁護の費用はすでにブッチから受け取っていると告げたというのだ。
マット逮捕のニューズはすぐに知れ渡り、ブラウンズパークのブッチの元にも届いたに違いない。というのは、ブッチはマットの病身の妻ローズとも手紙のやり取りをしており、マット逮捕は噂話としてブラウンズパークに伝わらなかったとしても、ローズが詳しく知らせたことだろう。
ブッチは裁判にはお金がかかり、弁護士が必要だということを体験上嫌というほど知っていたから、即座に反応したことだろう。マットの回顧録にあるように、2、3ヵ月もブッチの方から連絡がなかったというのは信じられない。
マット自身もその回顧録で書いているが、コールマンに対しても自分の不運に対しても憤り、ローズの生活費のこともあり、混乱していた。刑務所のようなところで外界の動きが全く掴めない場合、いったい外で何をやっているのだ、俺のことをを忘れてしまったのか、なぜもっと早く動いてくれないのだと、消耗するものだ。時間の流れ方がム所の外と内では全く違うのだ。
ブッチは、大金を、それも即急に用意しなければならない事態に陥ったのだ。
…-つづく
第43回:Butch
Cassidy_アイダホ州・モンペリエー その1

