第35回:Butch Cassidy_ブッチとアルの保釈
更新日2007/06/21
ブッチとアル逮捕のニュースは、ランダーの町だけでなくワイオミング全体に即座に広まった。このようなニュースは異常な速さで伝わるものだ。ロックスプリングでブッチと親交のあった弁護士ダグラス(Douglas
A. Preston)もブッチ逮捕を知り、ランダーに駆けつけている。

アウトローシンパの弁護士ダグ(Douglas Preston)。
ブッチは彼に全面的な信頼を置いていた。
ダグもワイルド・バンチのスポークスマン的役割を
喜んで引き受けていた痕跡がある。
公判は1892年7月16日に設定され、保釈金はブッチ、アルともに400ドルと言い渡された。ということは400ドルの保釈金を払えば、公判の日まで留置所から開放され、自由に動き回ることができるのだ。ところがあれだけの大金を持っていたはずのブッチが、この時すでにすべてを使い果たしのか、400ドルの保釈金すら払えなかったのだ。
アルとのホースクリーク牧場、ブルークリークでの馬泥棒オペレーション基地設置がブッチの持ち金すべてを吸い取ってしまったのだろうか。それとも、お金を洞窟とか砂漠か大木の下に埋めたりして、本人しか分からないところに隠していたのだろうか。海賊キャプテン・キッドの財宝よろしく、ワイルド・バンチの隠し金の存在を本気で信じ、未だに宝探しに生涯をかけている御仁がたくさんいる。
400ドルを払うことができないために、ブッチとアルはもう2ヵ月余計に、フレーモント郡の留置所で過ごさなければならなかった。結局、フレッド(Fred
Whitney)とレオナルド(Leonard Short)というランダーのビジネスマン二人がブッチの保釈金を積み、サロンバーのオーナー、ラーニガン(Bill
& Edward Lannigan)がアルの保釈金を積み、公判の日まで自由の身となったのだった。
今まで、触れずにきたが、ブッチとアルの罪状は若いカウボーイ、ビリー(Joseph Billy Nutcher)から買った3頭の馬に関するもので、その3頭の馬をブッチとアルがグレイブル牧畜会社から盗んだという容疑だった。コロラド州テリュライドの銀行強盗は全く対象外だったのだ。
テリュライド事件は西部全域に知れ渡り、デンバーはもとより西部の主要な新聞に取り上げられたほどだから、ワイオミング州のランダーの検事たちもブッチがテリュライドの強盗事件に関与していたのを知っていたはずだ。だがその件には全く触れていない。また当然、ブッチ逮捕のニュースはコロラド州のテリュライドにも届いたはずだ。テリュライドから司法処置の要請がランダーの裁判所にあってもおかしくないはずだが、それもなかった。
当時のアメリカの各州の独自性は理解しにくいものがある。州境に鉄条網の柵が張ってあるわけでなし、州境の警備隊のようなものがいるわけでもなく、主要道路にここからユタ州とか、“ウエルカム・ワイオミン”グのような看板標識がポツネンと立っているだけなのだ。今でも間道にある州境のサインや立て看板は往々にしてライフルで射撃練習をした弾痕で穴だらけになっていたりする。それでいて、州は一種の独立国のような存在だった。
メキシコやカナダとの本当の国境も州境と変わりなかった。各州の独立性は協調協力し合うことを阻み、アウトローのシゴトをしやすくしていた。当時まだFBIは創設されておらず、ごく限られた数のUSマーシャルがいるにはいたが、馬泥棒程度の犯罪に乗り出してくることはなかった。
ワイルド・バンチの幾つもの州にまたがる派手な活躍が、はじめはワイオミング州とコロラド州の罪人引渡し協定、捜査網の完備をうながし、後に他の州にも広がっていくことになったのだが。
公判は翌年、1893年6月20日に開かれることになった。それまでの11ヵ月間ブッチはランダーの町の北方70マイルの距離にあるオウルクリークで冬越しをし、クリス(Christian
Heiden)という若者と駅馬車を運行したりしている。が、春明けと共に、テキサス州のサン・アントニオまで下った。
サン・アントニオには後日、ワイルド・バンチ専用御用達、大のお気に入りとなったファニー・ポッターの家(Fannie
Potter)があった。娼婦の館である。ブッチはファニー・ポッターの館で働いている、名前がラウラとだけ知られている16歳の娘を、"こんなところで働くには若すぎるし、きれいすぎる"と、身請けし、ユタ州ウエリントン(Wellington)まで彼女を連れて行き、そこのモルモン教家族のもとへ預けたりしている。
その後、彼女がどんな生涯を過ごしたかは分からないし、ブッチがラウラに恋愛感情を持っていたのか、二人がどのような関係だったのか不明のままだが、この逸話が本当だとすると、ブッチは娼婦を身請けするだけのお金を、たとえ日本の遊郭のように高額な借金で縛り上げ、半ば奴隷的契約で半生を拘束することはなかったにしろ、身請けするにはそれなりのお金が必要だったろうから、かなりの金額を持っていたことになるし、それでなくてもファニー・ポッターの館は、ランキングが相当高く、貧乏カウボーイの出入りできるところではなかった。
1年近くシゴトをせずに、娼館に出入りしていたのだから、やはりどこかにお金を隠し持っていたのだろうか。
ブッチは裁判に赴くため、そのまま北上しランダーへ向かった。これも不思議な行動だ。当時一度保釈金を払ってしまえば、その土地によほど強い執着、土地、家族、ビジネスでも持っていない限り、他の州へ逃げ、二度とその州へ戻ってこないのが当たり前だった。
保安官ワイアット・アープも、アーカンソー州で酔っ払った末に殺人事件を起こし、保釈金を親父に払ってもらい、そのままトンズラしてアリゾナで保安官になった。そんな例は数え切れないほどある。州政府も自分の州から出て行ってくれればそれでよい、裁判の費用も馬鹿にならないし、無駄な税金を使って囚人を監獄で監視する必要がなくなると考えていたフシがある。
ブッチの場合もワイオミング州へ再び帰らなければ、それで済むことだった。ところが、ブッチは公判までにワイオミング州のランダーの町に戻ってきたのだった。
…-つづく
第36回:Butch
Cassidy_ブッチとアルの裁判

