第31回:少し長めの蛇足_ジョンソン郡の戦争 その2
更新日2007/05/24
奥まったネイトのKC牧場になかなか手を出せないでいた大牧場主連合は、駅馬車の中継駅と小規模の牧場を営むジム(Jim
Averell)と妻のエラ(Ella Watson"カトル・ケイト"としての方が名が通っている)を槍玉にあげた。牛泥棒の罪でリンチに掛け、吊るしたのだ。西部史の中でも女性を縛り首にし、吊るした例は非常に少ない。

エラ、カトル・ケイト(Cattle Kate)として知られた女傑。
エラ、(カトル・ケイト)は肝っ玉の据わった女性で、公然と大牧場主連合を非難し、連合の牛を自分の牧場に追い込んでいることを隠そうともしなかった。さらに、大牧場主連合の罪状を並べた書簡を郡の首都、バッファローや、州都シャイアンの官憲に盛んに送っていた。連合としてはこの煩い女をまず片付けようとしたのだろう。
次の犠牲者はトム・ワグナー(Tom Waggoner)だった。連合側によればトムは馬泥棒で、30,000ドルとも70,000ドルとも言われる財を成したことになっている。しかし、トムと彼の妻が住んでいたキャビンは2部屋だけの、典型的な開拓部落のバラックで、彼が馬泥棒に関係していたにしろ、連合が言うほどの被害、ましてや財を成すには程遠いものだ。トムも吊るされ、見せしめのために長いこと曝された。

ワイルド ウエスト時代の典型的なリンチ。
このように吊るし野ざらしにした。
この町で無法を働くものはこうなるという見せしめのためだ。
この写真は1868年、ララミー・ワイオミングで吊るされた3人組
(Asa Moore, Con Wagner, Big Ed Wilson)。
エラ(カトル・ケイト)とジムが縛り首になった写真は現存しない。
1891年11月1日に大地主連合が雇ったフランク・カントンがガンマンを率いてネイト・チャンピオンとロス・ギルバートソンを襲ったが撃退されている。その後、自作農のジョン・ティスデルがカントンに殺された。
1892年の4月6日、ワイオミング州中部の町カスパーの駅に特別仕立ての3両の列車が到着した。シャイアンのWSGA、すなわち大牧場主連合のお抱えで暴虐を繰り返していた自称牛泥棒捜査隊とテキサスから新たに雇いいえれた重装備のガンマン、総数50余人が下車したのだ。 オクラホマ インディアン居住地区でU.S.マーシャルを務めた経歴をもつトーマス スミス(Thomas
Calton Smith)がテキサスから牛泥棒、自作農撲滅のために雇い入れてきた戦闘員の一行だった。
このテキサスガンマンを統率したのはジンソン郡地元でスコットランド人所有のVR牧場の支配人を勤めていた元U.S.マーシャル、フランク ウオルコット(Frank
Wolcott)だった。フランクは名誉欲が異常に強いだけ無く、自分の利益のためなら、どんな嘘でもつくような人物だった。グラント大統領はウオルコットを職権乱用、横領で、U.S.マーシャルの職を首にし、ウオルコットを毛嫌いしていることを隠そうともしなかった。ワイオミング史の決定版(ローソン著)中でもフランク ウオルコットを公私共に腐敗しきった男と切り捨てている。そんな人間は得てして大きな力を持つ者に取り入るのが上手いものだ。ウオルコットは元U.S.マーシャルとして自分を大牧場主連合に売り込み、ワイオミングから牛泥棒を一掃し、ひいては自作農協会を潰してみせると受けあったのだ。このフランクがブッチ、マット、トムの3人組を後一歩というところまで追い詰め、3人はそれぞれ危ういところを激流に飛び込みかろうじて逃げ果せたのだ。

偏執教的なフランク・ウオルコット。
もう一人のフランク(Frank Canton)が登場するので話はややこしくなってくる。二人のフランクはよく混同されているし、映画や小説では話をすっきりさせるため、意図的に同一人物としているが、全くの別人で、フランクナンバー2、カントンの方は1882年から1886年までジョンソン郡のシェリフを勤めた大牧場主連合べったりの男で、自分が優位に立ったとき、相手を殺すのを、腕に止まった蚊を叩き潰すほどにしか思わないような人物だった。カントンはその生涯に8件は確実に、恐らくは10件の殺人を犯している。
カントンはかって自分がシェリフを勤めたジョンソン郡を大地主連合サイドに取り戻し、そして連合のバックアップでまたシェリフに返り咲こうという思惑があった。この二人のフランク、ウオルコットとカントンは主導権を争い、最後まで互いの足を引っ張り合った。
このとき連合側が作った抹消者リストには70名の名前が連なっており、自作農に共感を寄せる、ジョンソン郡のシェリフ、ウイリアム・レッド アンガス(William
"Red" Angus)の名前まで挙がっていた。自作農から選出された郡会議員3名、そしてネイト・チャンピィヨンの名もトップにあった。
これだけ大掛りな武装部隊を揃えたのは、一人の男ネイト・チャンピョンを殺害するだけでなく、ジョンソン郡の首都バッファローに巣食っている自作農の組合を潰し一掃し、自作農側に立つバッファローのシェリフ、ビル・レッドを取り除くためだった。この武装グループは地方政庁と自作農に公然と戦いを挑むプライベートミリタリーで、私設軍隊と呼んでいい規模だ。
カスパーで下車したガンマン一行はそこから馬と弾薬、ダイナマイト、キャンプ用品、食料を積んだ馬車を隊列に組んでジョンソン郡に向かった。ガンマン一行は強行軍で一挙にバッファローに攻め込もうとしていたようだ。そのため、バッファローへの電信線を切断し、彼らの動きをジョンソン郡の自作農側に知られないようにしている。
バッファローのシェリフが連合軍ガンマンのニュースを知り、防衛策をとる前に襲撃しようとしたのだ。だが、折から激しい雪が降り、道路がぬかるみになり、行軍を遅らせた。一日の強行軍でバッファローに攻め込むプランは崩れ、途中で一泊、森でキャンプしなければならなくなったのだ。
このキャンプ一泊が、ネイトの最後を決めることになり、バッファローの町での惨劇を回避することになった。
…-つづく
第32回:少し長めの蛇足_ジョンソン郡の戦争 その3

