第71回:ジム・ローウズという男 その2
更新日2008/03/20
WS牧場から75マイル離れた郡の首都ソコロ(Socorro)まで数百頭の牛を追ったことがあった。このときは牧童頭をペリー・タッカー(Perry
Tucker)が勤めたが、彼はジム・ローウズとマックギニスの乗馬の巧さ、牛を常にコントロールし、群れを決して崩さない移動のさせ方に舌を巻いている。実際、この牛追いの旅で、彼らは一頭も失なわずにソコロに着いたのだった。これはペリーにも牧場主のフレンチにも初めてのことだった。
以後、牛追い移動、カトル・ドライブはジム・ローウズに任され、彼はいつも完璧な仕事をこなした。また、荒馬を乗りこなせるように調教するのも彼らの仕事になった。フレンチは、それまでに彼らほど速やかに、しかし毅然と荒馬を手なずけることができるカウボーイにお目にかかったことがなかったと告白している。

縛り首、ニューメキシコ。アリゾナ、ニューメキシコは
まだ法治国家と呼ぶには程遠い辺境の無法地帯だった。
保安官がいない街や郡がたくさんあり、住民が自警団を組織し、
犯罪に対してリンチで対処した。
加えてフレンチのWS牧場の牛、馬を盗まれることが皆無になったのだ。フレンチにとって新しく雇い入れた牧童はこれ以上望めない完璧な存在だった。間もなくフレンチはジム・ローウズを牧童頭にし、新しく雇い入れるカウボーイの人選を一切任せた。フレンチにとって、これで扱いにくい流れカウボーイの首を切ったり、雇い入れたりの雑務から開放されることになった。
フレンチは回顧談の中で、ジム・ローウズが雇い入れる流れカウボーイたちはフレンチの前では互いに初めて知り合った牧童頭と、いちカウボーイのように振舞っていたが、何かの用事で、牧童の小屋に行ったとき、ジム・ローウズと新入りの流れカウボーイが旧知の間柄のように冗談を言い合っていたと述べている。だが、それがなんだというのだ、これほどの牧童頭と彼の元で素晴らしいチームワークを発揮する働き者のカウボーイ集団を得るのは不可能なことだ。フレンチにとって、ジム・ローウズと彼の仲間たちは理想のカウボーイたちであり、ドリームチームだった。
ジム・ローウズとはブッチであり、ウィリアム・マックギニスとはエルジー・レイである。そしてジムが雇い入れた流れカウボーイたちは皆ワイルドバンチの面々だったのだ。

ビリー・ザ・キッド。彼も多くのお尋ね者同様
ニューメキシコに逃れてきたアウトローの一人だ。
彼はカウボーイではなかったし、ブッチがニューメキシコのWS牧場に
隠れたときより17年前にリンカーン郡の拘置所を破り脱獄している。
その後、シェリフ・パット・ギャレットの手で殺される。
アリゾナ州、WS牧場の持ち主、英国人ウィリアム・フレンチが、自分の牧場がブッチの率いるワイルドバンチのオペレーションセンターになっていたのを知っていたかどうかは分からない。フレンチの回顧談の中では、ただの流れカウボーイの集団でないことは薄々気付いていたが、まさかブッチ・キャサディーとそのグループだとは想像もしなかった……としている。
フレンチにしてみれば、得がたいカウボーイ集団を雇っているのだし、WS牧場に最大の利益をもたらしこそすれ、害は何一つ及ぼしていないのだから、余計な詮索は無用のことだと割り切っていたのだろう。それにフレンチはジム・ローウズ(ブッチだが)がすっかり気に入っていた。

マックスェーンの店。ニューメキシコ、リンカーン郡。
力がすべてを支配していた。“リンカーン郡の戦争”は
大牧場主同士の殺し合いだった。
ブッチが住み着いたとき、ニューメキシコには
まだ硝煙のニオイがたちこめていた。
ブッチがワイオミング、コロラド、ユタの3州に見切りをつけアリゾナまで南下したのは、彼がかなり正確な追っ手の情報を掴んでいたからだと見てよいだろう。ワイルドバンチ御用達弁護士のダグ・ぺターソンともかなりの頻度で連絡を取り合っていた形跡があるし、単身で3州を歩き回ってもいるので、時代の変化とともにアウトローの身の置き場所がなくなっていきつつあることを実感していたのだろう。
ユタ、ワイオミング、コロラドから遠ざかり、ニューメキシコまで下り、いち牧童として働き、身を隠したのは、ブッチの危険を感知するアンテナの感度の良さと言ってよい。そしてブッチはWS牧場で、牧童頭として働きながら、ワイルドバンチの次の作戦を立てていたのだ。
…-つづく
第72回:ウィルコック列車強盗事件

