■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]




第1回〜第50回までのバックナンバー

第51回:Butch Cassidy_キャスル・ゲイト その2
第52回:一つの鮮やかな成功は常にモノマネザルを呼ぶ
第53回:ミーカー銀行強盗の怪
第54回:マッカテ ィー一族 その1
第55回:マッカティー一族 その2
第56回:マッカティー一族 その3
第57回:マッカティー一族 その4
第58回:ブッチのエピソード その1
第59回:ブッチのエピソード その2
第60回:The Sundance Kid (サンダンス・キッズ) その1
第61回:サンダンス・キッズ_その
第62回:サンダンス・キッズ_その3
第63回:サンダンス・キッズ_その4
第64回:サンダンス・キッズの初仕事
第65回:ベレフォーシュ銀行強盗
第66回:アウトローと愛国心
第67回:ジョー・ウォーカー その1
第68回:ジョー・ウォーカー その2


■更新予定日:毎週木曜日

第69回:自分の葬式に参列した男

更新日2008/03/06


キャスルゲイトの給料強奪事件の被害当時者、カーペンター(E. L. Carpenter)他数人がプライスにやって来て、死体をブッチだと言い出してから"ブッチ殺される"というニュースは、既成事実として、ユタ、ワイオミング、コロラドの3州に広がった。

同時に逮捕されたニ人の小者アウトロー(Schulzと Thompsonとだけ名が知れている、証拠不十分で無罪になった後、行方不明)が、ジョー・ウォーカーと一緒に殺された男はブッチではないと口を揃えて証言したが、一旦歩き出したセンセーショナルなニュースにかき消されてしまった。

どうにも人間には自分が信じたいものを信じ、一旦信じてしまうと新たに現れた事実が見えなくなる哀しい性向があるらしい。追跡団のメンバー、USマーシャルのジョー・ブッシュたちもよほど浮き足立っていたのだろうか、賞金の大きさ、自らの手柄に酔っていたのだろうか、今流に言えば、すっかり英雄気取りでジャーナリズムの"時の人"になったのだ。

ブッチの死を信じない者も多かった。とりわけ、ブッチをよく知るアウトローシンパは誰もブッチが殺害されたことを信じなかった。

モンペリエの銀行強盗の仲間ミークス(Bob Meeks)の従弟、ジョー(Joe Meeks;プライスから30マイルの距離にあるハンティングトンに牧場を持っていた)は、自身ワイルドバンチには加わりこそしなかったが、ブッチたちに逃走用の馬の世話をしたり、宿を貸したりしていた数多いブッチシンパの一人だった。

ハービー・ローガンやサンダンス・キッズたちは、宿を借る場合でも、「誰にも言うな」という脅し、口止めをかけなければならなかった。だが、不思議なことにブッチには協賛者が沢山いた。ボブの従弟、ジョー・ミークス(ジョーが多くて混乱するが、この時代のアメリカ人の名前はバリエーションに乏しかった)は、妻のミーニーと連れだってプライスの町まで、ブッチの死体を見物に出かけている。今でこそ舗装された州道10号線が走っているが、当時は道すらない瓦礫の荒野を往復60マイルの距離を死体見物に出かけているのだ。

ニ人はプライスの町で、保安官のオールレッド(Allred)の尋問を受けている。ジョー・ミークスは、「確かによく似ている。背丈は全く同じだし、体格も外貌もよく似ているけどブッチじゃない」と証言し、ミーニーの方は、「お前たちに ブッチが捕まるわきゃーないだろう。お前たちが捕まえるには、ブッチは利巧すぎるんだよ。この男はブッチじゃないよ」とヒステリック叫び、ブッチシンパの感情を爆発させている。

ブッチの死を全く信じない男が、他にもニ人いた。一人はワイルドバンチ専門御用達の弁護士とみなされていたプレストン(Douglas Preston)である。彼の顧客の一人、グリドリー(Finley P. Gridley)はワイオミング州のロックスプリングのプレストンの事務所での会話を鮮明に覚えていた。ブッチの殺害が話題になったとき、プレストンは大笑いして、「そりゃ、大ニュースだ。ただし、本当だとすればね。なんたって、私は今日の朝、ブラウンズパークで生きたブッチに逢ってきたばかりだから」と笑い崩れたと言うのだ。


ブッチたちワイルドバンチの面々がよく立ち寄った隠れ家の
一つジム・スプラウスの小屋。プライスの郊外ににあった。

もう一人、ブッチの死を全く信じなかったのは、ブッチ自身だった。ブッチが自分が殺されたというニュースを耳にしたのは、プライスから12マイル離れたブラウンズホール峠付近にあるジム(Jim Sprouse)の小屋でのことだった。ブッチはジムの小屋を定宿にしていたのだ。ブッチは何か不明の"ビジネス?"で南下を急いでいたが、ユーモアのセンスが彼を捕捉してしまったのだろう、必要のない遠回りをして、危険を犯してまでプライスの町に立ち寄り、歴史上初めて"自分の葬儀に参列した男"になろうとしたのだ。

自分の身代わりになって死んでくれた男を一目見たいという誘惑が、町中で知り合いに会い、逮捕につながる危険を犯すより強かったのだろう。ブッチにはこのような遊び心、自分の冗談を一人で楽しむ精神があった。それにこの手の話は、生涯サロンバーで大受けするのは保障付きだった。

翌日、ジムを御者役にして、ブッチは幌付きの馬車に隠れるように乗り込み、プライスの町中へ入っていった。さすがに葬儀には喪服姿で参列はしなかったが、幌の下から自分の棺桶を覗き見し、メインストリートを抜けている。そして参列者の多さ、しかも多くの女性が目を泣きはらしているのに感動している……。この自分の葬儀に参列した話は、ブッチの妹ルーラ・パーカーの本とチャールス・ケリーの古典『The Outlaw trail』に出てくるのだが、史実を疑う声が多い。よくできた話ではあるし、ブッチの性格がよく表されている逸話だと感心するのだが…。

自分の葬儀に参加する話は、『ハックルベリー・フィン』にあったはずだと、ふと気が付き、読み直したら、やはり同じ話があるではないか。読書好きだったブッチが、当時のベストセラーだった『ハックルベリー・フィン』を読んでいた可能性は高いし、自分と間違って殺された男の話をハックルベリー・フィン風に脚色し、サロンバーで駄法螺を吹いていたのだろう。マーク・トウェインなら、「盗作だ、著作権の侵害だ」とか、うるさいことは一切言わずに、ブッチの冗談を楽しんだことだろう。


ジョー・ウォーカーとジョン・ヘリングの墓石。
記念碑のように立派な造りだ。
墓石の後ろにニ人の顛末が刻まれている。

ジョー・ウォーカーと一緒に殺された男は、ジョン・ヘリング(John Herring;歴史家によっては Herronと記述している)と呼ばれたワイオミングのカウボーイだった。彼もブッチと間違われたことで西部史…というより小さな西部アウトロー史に名を残すことになった。ブッチ効果である。

ジョー・ウォーカーとジム・へリングは、捨てられるようにプライスの公共墓地に葬られた。戦後、墓地を延長拡大するとき、彼らの遺骨が見つかり、町の歴史愛好家たちが寄付を募り、こんな立派な石碑のような墓を立てたのだという。

-つづく

 

 

第70回:ジム・ローウズという男


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