第15回:Monterose モンテローズ
更新日2007/02/01
春の到来とともに、ブッチはテリュライドに舞い戻ってきた。預けてあった子馬のコーニッシュは3歳の若駒に成長していた。
ブッチがコーニッシュを引き取りに行ったとき、牧場主アル(Albert Stanley)が仔馬の引渡しを拒否したのが、揉め事の発端だった。馬を預かり飼い葉を与え、運動させ、基本的なトレーニングをほどこす馬のホテル牧場をボーディングと言うが、今も昔も結構な料金を取る。とりわけ、ブームタウンのテリュライドのようなところで、しかも6、7カ月に及ぶ冬場の預かり料は、他の土地の何倍にもなったと思われる。
ともあれ、ボーディングの主、アルは牧草の値上がりに伴う預かり料、言ってみればサーチャージだろう、それを全額支払うまでコーニッシュを手渡すわけにはいかないとゴネ出したのだ。ブッチの方は、初めの取り決め通りの金額は支払うが、それ以上はビタ一文払わないと突っぱね、そのままコーニッシュに鞍を置き、立ち去った。
アルはシェリフに自分の馬が盗まれたと訴えて出た。ブッチは即刻馬泥棒の罪で逮捕され、テリュライドの北80マイルにあるモンテローズの町の留置所にぶち込まれた。その時、ブッチは何の抵抗もせず、後に彼を逮捕したシェリフに、「ブッチは私が今まで出会った最高級の人物」と言わしめている。モンテローズのシェリフ、役人たちはブッチを一応容疑者として取り扱いはしたが、ブッチの人間的魅力にひかれたのだろうか、むしろ旧友のようにとりなした。

残念ながら、ブッチが入っていたモンテローズの留置所は残って
いない。もし残っていれば観光名所となり、モンテローズの町に
過大なお金を落としてくれたに違いない。
この写真は、テリュライドから直線距離にするとほんの15キロほど
南東にある金銀鉱山の町シルバートン(Sliverton)のもの。
シェリフ詰め所と併用されているような留置所は
中西部どこでもおよそこのようなものだったろう。

ブッチが牢に入っていると知った父親、マックスはモンテローズのシェリフ詰め所の留置所にブッチを訪れた時の驚きを語っている。牢屋の鉄格子のドアが開け放たれており、ブッチは陽当たりのよいところに椅子を持ち出し、陽気を楽しむかのように本を読んでいたというのだ。
曰く、「シェリフたちは、俺が決して脱獄しないことが分かっているし、俺が人様のモノに手をつけるような人間でないことを承知している。俺も自分の馬を取り返すまでここに居るつもりだ」とにこやかに、リラックスした様子で親父に告げたのだった。*1
これが後に大列車強盗、大銀行破りのボスに収まることになる人間の口から出た言葉なのだ。人間は変わるものだとも取れるが、いかにもプロの大泥棒の言いそうなことだとも言える。
この事件はブッチの言い分が通り、お咎めなしでコーニッシュを連れてテリュライドに戻っている。ボーディングの主、アルがコーニッシュがいい馬になってきたので、手離すのが惜しくなり、難癖をつけ、自分のモノにしてしまおうと企んだのが真相のようだ。
同じような手口で幾頭の馬をせしめてきたことだし、なにせ相手は流れのカウボーイ、荷役夫なのだから、脅しをかければ簡単にカタがつくと思ったのだろう。だが、相手が悪かった。ブッチは底抜けに明るい人好きのする天性を持っていたが、同時に決断力とそれを実行に移すしなやかなバネを思考回路に持っていた。
ボーディングの牧場主、アルとコーニッシュのことで言い争ったとき、恐らく牧童たちも周りに居たに違いない。相手の土俵の上での争いなのだ。だが、ブッチはこの牧場主と口論してもラチが明かないと判断するや、平然とコーニッシュに鞍を置き背を見せて歩み去ったのだ。これは並みの神経でできることではない。撃たれても致し方ない状況だ。このように憤然とした行動をとる決断力と、逮捕に来たシェリフを巻き込むような明るい楽天的な素直さがブッチの中に同居していた。モンテローズの入獄エピソードは、ブッチの性格を物語る良い例だ。
ブッチは父親のサークルヴィルの故郷に一緒に帰ろうという強い勧めを絶ち、もう少し、もうしばらく、テリュライドでお金を稼ぎ仕送りする、その後で必ず帰ると、空約束を繰り返し、居残ったのだった。
*1:Lula Parker Betenson, Butch
Cassidy, My brother
…-つづく
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