第64回:サンダンス・キッズの初仕事
更新日2008/01/31
1892年の初めに、キッズはカナダ、カルガリーのグランド・セントラル・ホテルの権利を半分買い取った。共同経営者はフランク・ハミルトンという地方の実業家だった。ニ人は初めからウマが合わなかった。この大そうな名前のホテルは階下がサロンバー、2階にいくつかの部屋がある程度の中西部の田舎によくある代物だったにしろ、キッズにそれだけの財力があったことになる。
商売がうまくいけば流れカウボーイを止め、そこに定住しようとしたのではないかと見る向きもないではないが、恐らくキッズは衝動的に権利を買ったか、フランク・ハミルトンにうまく乗せられたのだと思う。流れ者やいつも不安定な日雇い仕事を続ける者は定着に憧れるものだ。そして一番取っ付きやすいのは水商売だ。
商売が行き詰まり、フランクとの仲が崩れると、投資したはずの仕事を投げ出し、すぐさま元の流れカウボーイに戻り、モンタナのマイルシティ近くの牧場で牧童として、彼がもっとも優れた能力を発揮できる、荒馬を乗りこなし、ブレイクする仕事に就いている。
夏場はそれでよかった。しかし、秋が訪れ、日雇いの流れカウボーイたちは揃ってクビを切られ、冬場をどうやって過ごすかが大問題になってきたのだ。キッズは彼らが忌み嫌う"町の仕事"、レストランやバーの皿洗いのようなことまでしていたようだ。
新聞では盛んに列車強盗のことを書きたてていた。実際、列車強盗は簡単なシゴトだった。客車、貨車に連結されたExpress(現金輸送車のことで急行列車の意味ではない)には、銀行員か鉄道会社の事務官が一人乗っているだけだった。
現金輸送車に重い金庫を備え付け、コンビネーションの番号でしか開けることができないようにし、しかもその番号は目的地の係官にしか知らせず、また輸送車の係官にライフル、ピストルを持たせるようになったのは、列車強盗が頻発してからのことだ。
折りよく、アウトローにとってという意味だが、ノーベルがダイナマイトを発明してくれ、不安定だったニトログリセリンの爆発力を持ち歩きに安全、便利で使いやすい形に変えてくれた。これでいかに厳重な金庫も瞬時にぶち壊すことができるようになったのだ。
キッズは旧知のビル・メイデン(Bill Madden)と組み、もう一人流れ者のハリー (Harry Bass)を仲間に加え、本当の意味での初仕事に乗り出したのだ。選ばれたのはグレートノーザン鉄道、場所はモンタナのマルタ。マルタは東の大きな町グラスゴーから65マイル、カナダ国境まで直線にして50マイルの距離にある町とも呼べないところだ。
3人組は数日前から線路付近を調べ、駅で列車の連結状態をチェックし、現金輸送車の存在を確認している。彼らなりにかなり念入りな調査をしたつもりだった。
11月29日、3人組は列車を襲った。一人がマルタから列車に乗り込み、1マイルほど走ったところで覆面をして、機関士に列車を止めるよう脅しをかけた。汽車が止まったところにニ人組みが待ち構えていて、現金輸送車に乗り込んで行ったのだ。
彼らはまず郵便輸送用の袋をチェックしたが、そこに金目ものは何もなかった。そこで痩せ型、5フィート10インチの背丈、青いコートを着た強盗
(キッズだと思われている) が、金庫を開けるよう輸送車の係官のジャコブに強制した。ジャコブが拒むと、「これを開けるか、お前が死ぬかどちらかだ」と脅しをかけたのだ。ジャコブは、「それじゃ私は死ぬよりほかなさそうです」と答えたのには強盗側も驚いたに違いない。しばらくの間を置いて、強盗は後ずさりしながら、「グッドバイ」と言い残し消えたのだった。ジャコブは逃げる3人組にライフルを見舞ったが当たらなかった。
次の停車場へレーナで現金輸送会社が被害総額を確定したが、郵便物に混じっていた郵便書留の盗難が50ドル程度だった。この列車強盗の収支決済は大赤字だったに違いない。おまけにこのドジな3人組はバンダナで隠したはずの顔を、何かの拍子にバンダナがズレ落ち顔をすっかり見られてしまったのだ。
さらに、何を考えていたのか、何も考えていないのか、こともあろうに3人組はマルタの町に引き返したのだ。襲撃の数日前からマルタの町中をうろつき回っていた怪しげな流れ者として、駅や酒場で顔が割れているのに、ビルとハリーはそのまま町に留まり、3日後の12月1日、馴染みになっていたアレックス・ブラック・サルーンであっさりと逮捕されたのだった。
その日の朝、キッズはそれと知らずマルタからワイオミングへ向かい、危ういところで逮捕を免れたのだ。キッズはしばらくホール・イン・ザ・ウォールに隠れ、その後ユタのブラウンズパークに潜んだのだった。
サンダンス・キッズのアウトロー修業時代は、このように失敗続きだった。キッズ、ビル、ハリーともども経験も頭脳も計画性も持ち合わせていなかったのは明らかだ。ただ、キッズはこの事件で立派なお尋ね者となり、常に追われる身になった。それで官憲が迫ってくる気配、自分の安全が脅かされる前兆に感応する、異常に研ぎ澄まされた神経を持つようになった。それが、将来何度も彼の身を救うことになる。
サンダンス・キッズは、一団の棟梁になる器量は持ち合わせいなかったし、脅しをかけるにしろ、まだ迫力がなく、現金輸送車の事務官ジャコブに逆にあっさりと牛耳られている。アウトローの一兵卒として優れた能力を発揮するのは、ブッチの指揮下に入ってからのことだ。
ビルとハリーのニ人の小者アウトローは10年の禁固刑を喰らったが、1895年、3年足らず勤め上げただけで出所している。ハリーはその年、テキサスで打ち殺された。ビルの方は全く行方が分からない。
-…つづく
第65回:ベレフォーシュ銀行強盗

