■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]




第1回〜第50回までのバックナンバー

第51回:Butch Cassidy_キャスル・ゲイト その2
第52回:一つの鮮やかな成功は常にモノマネザルを呼ぶ
第53回:ミーカー銀行強盗の怪
第54回:マッカテ ィー一族 その1
第55回:マッカティー一族 その2
第56回:マッカティー一族 その3
第57回:マッカティー一族 その4
第58回:ブッチのエピソード その1
第59回:ブッチのエピソード その2
第60回:The Sundance Kid (サンダンス・キッズ) その1 
第61回:サンダンス・キッズ_その2


■更新予定日:毎週木曜日

第62回:サンダンス・キッズ_その3

更新日2008/01/17


サンダンス・キッズがいかに護送中の列車から脱走できたのか、諸説、見解がたくさんあるが、いずれも憶測の域を出ない。

誰しもすぐに考えるのは、外からの手助けなしには、手錠、足枷をはずすことは不可能だということだろう。ブッチがこの脱走劇に一役買っているとする歴史家もいる。しかし、この時、20歳になったばかりのキッズはまだ本格的なアウトローへの道を踏み出しておらず、アウトロー仲間を持っていなかった。

彼は計画性ゼロの馬泥棒を働き捕まったが、それが初犯だった。ブッチと交友を結ぶのはずっーと後になってからのことで、キッズは仕事にあぶれた若い流れカウボーイの一人に過ぎなかった。外部からの助けを期待できる状態ではなかったと言ってよい。

キッズは生涯を通じて、あきれるくらい何度も脱走を試みている。何度かは成功し、ほとんどは失敗している。外の連絡を密に取り、綿密な計画のもとに脱獄を図ったことはなく、すべてキッズの動物的勘と僅かなスキをも見逃さない咄嗟の判断で行動している。この脱走劇をブッチとキッズの友情の芽とするのはいかにも無理がある。


以下は私の超個人的な見解だ。当時の手錠は現在のものと異なり、手首の太さによってアジャストできるようになってはいなかった。サイズが決まっており、それも3、4種類しかなく、それらの異なった全サイズを保安官が持ち合わせていない場合、骨太の巨漢も細身の女性も同じような手錠をかけられた。

現在の手錠のようにキリキリときつく締めたり、緩めたりできなかったのだ。鉄そのものは絶望的なくらい太く重く頑丈にできていたが、保安官がその重い手錠を3、4サイズすべて揃えて、加えて足枷と鎖を持ち歩くことはできない相談だった。

私は、日本人として骨格は並だが西欧人と比べると虚弱と言っていいくらい骨が細い。西部の田舎町の骨董屋でそんなタイプの手錠を試し、自分でかけたてみたところ、苦もなくスルリといとも簡単に手を抜くことができたのだ。

足枷の方は試すチャンスがなかったが、他の容疑者同様、キッズもブーツの上から足枷を掛けられていたに違いない。骨細の人なら、一旦手錠から手を抜き、それからブーツと足枷を一緒に脱ぐカタチで足枷を抜くことができたはずだ。それから、足枷をブーツから抜き取り、またブーツを履けばよいのだ。

流れカウボーイ時代のキッズの写真は残っていない。刑務所に入った時の記録によると、20歳のキッズは身長5フィート10インチ半(180センチくらい)、軽い体形、明るい髪、青い目とある。青年期を迎え、まだ肉が付く前で、細身だったことが伺える。

保安官のライアンがトイレに立った隙にキッズは手錠から手を抜き、ブーツごと足枷を脱ぎ、自由の身となったと私はみている。荒馬をブレイクする際、何百回となく馬から振り落とされ、地面に叩きつけられることで鍛えられた反射神経は40〜50キロのスピードで走る列車から飛び降りることなど問題にしなかったことだろう。まあ、このように脱獄したと…想像しているのだが、どうだろうか。

まんまと列車から逃亡したのに、なんということだろう。キッズはまたマイルシティに舞い戻ってきたのだ。保安官のライアンもマイルシティのあるカスター郡の保安官デイビス(E.K."Eph"Davis)も想像だにしなかったに違いない。

キッズの行動は裏をかいたと言えなくもないが、若輩キッズの思考経路に相手の動きを読んだ上で、将来に向けて計画を立てる要素が全く欠如しているのだ。キッズ自ら、捕まえてくださいと飛び込んできたようなものだ。キッズは即再逮捕され、マイルシティの留置所にぶち込まれたのだった。

そこでもまた、キッズは脱走を図っている。留置所の高い窓によじ登り、鉄格子の間から脱獄しようとしたのだ。だが、これは保安官デイビスに見つかり失敗に終わっている。キッズの体が鉄格子に挟まったまま身動きが取れなくなって発見されたとも言われている。超人的脱獄を繰り返し、吉村昭の小説『破獄』のモデルになった人物を思わせる。

キッズが護送中の列車から脱走し、再度マイルシティで捕まるまでの間、マイルシティ界隈で馬や鞍の盗難が頻発した。デイリー・イエローストーン・ジャーナル紙は、それをキッズの仕業に違いないと書きたてた。

留置所の中でそんなニュースを知ったキッズは、新聞社に手紙を書き、自分はそのような窃盗には全く関与しておらず、今、留置所に入れられているのも冤罪だと申し立てた。キッズからの手紙は、そのままデイリー・イエローストーン・ジャーナル紙に掲載されたのだ。

こんなところが私を愉快な気分にさせる。留置所に拘留されている容疑者が、自由に新聞を読むことができ、新聞社に直接手紙を書き、自社の見解とは全く180度違う、反対意見であっても容疑者からの手紙としてそのまま載せる。なんとおおらかなことだろう。

6月22日、キッズはまたしても 保安官ジム・ライアンに引き連れられ、ワイオミングに護送された。今回、ライアンは警戒怠りなく、クック郡の首都サンダンスの留置所まで運び込んだ。そこでキッズに18ヵ月の強制労働の判決が下ったのだった。

-つづく

 

 

第63回:サンダンス・キッズ_その4


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