第10回:カントリースクール その1 更新日2006/05/04
6歳になった秋、私は学校に通い始めました。田舎のことですから教室一つだけの校舎で、学校というよりは寺小屋と言った方が当たっているでしょう。その一部屋学校に、1年生から8年生までの子供たち30人ほどが、一人の先生について授業を受けるのです。

カントリースクールの全校生徒の集合写真です。
残念なことに、すっかり色あせてしまい、
誰が誰だか分からないほどです。
皆が皆、貧しそうな服装です。
田舎モノ(と言っても、この学校の生徒は100%皆田舎者でしたが)の私はとても内気で、恥ずかしがりで、同じくらいの歳の子供と遊んだ経験より動物たちを友達にして遊んでいたことの方がずっと多い、板引っ込み思案の子でした。
今の私からは想像できませんが。学校へ通う最初の日(始業式のようなものはありません)、お母さんに連れられ、学校までの道順を、ここの大きな楡の木を左に曲がり、まっすぐにダニエルさんの家の方へ向かい、そこを過ぎたらもう学校の白い建物が見えるでしょう、と教えられ、帰り道も一度だけお母さんと一緒に歩きました。
初めての学校に興奮して、道順をよく聞いていなかったのでしょう。翌日、お弁当箱を下げ、私と同じくらい興奮してるフリッツと無事登校できたのですが、教室にペットを入れることは許されず、フリッツは一人(一匹で)先に帰ってしまい、私一人で、お母さんに教えられたとおりの道をたどったつもりでした。けれども見事に迷ってしまったのです。
家まで2キロくらいの距離だったと思います。6歳の子供にはとても長い道のりです。行けども行けども、見覚えのある風景は現れてきませんでした。少一時間も知らない道を行き来してから、学校に引き返すことにしたのは、今もって自分を褒めてやりたいぐらいの良い決断だったと思います。しかも泣き出しもせずに!
どこをどう回ったものでしょう。突然という感じでダニエルさんの家の前に出てきたのです。ダニエルさんのところの大きなコリーが尻尾を振りながらまず走り出てきて私に挨拶し、続いて納屋の方からダニエルさんがやってきました。
「オヤ、まー、もう学校は終わったのかい、母屋に行ってばあさんからクッキーでももらうといいよ」と言ってくれました。私は大きなコリーに連れられるようにダニエルさんの母屋へ行き、ダニエルさんのおばさんに、「私、ジョイおじいさんの農園のグレースと言います。学校の帰り道に迷ってしまいました。家に帰る道を教えてくれませんか」と丁寧に尋ねました。
おばさんは自分で焼いた大きなクッキーを私にくれました(クッキーは家で焼くものだとばかり思っていましたので、大きくなってから、お店でも買えると知ってびっくりしました)。ダニエルおばさんのクッキーはとてもおいしく、ナッツがたくさん入っていました。ダニエルさんのおばさんは、私の家まで一緒に歩いて送ってくれ、みちすがら、コリーの“バンジー”とすっかり友達になりました。
私は児童心理学の専門家でありませんし、その方面のことはいたって疎い方ですが、翌日から、ダニエルさんの家に立ち寄り、「おばさん遊ぼう!」と声をかけ、毎回クッキーにありつくようになったのをどう説明したらよいのでしょう。餌にありつくことを学んだ子犬と同じ心境だっただけかもしれませんが。
じきに学校で友達もでき、彼らもダニエルさんのところに引き連れていくようになったのです。もちろん皆、おばさんの素晴らしくおいしいクッキーをもらいました。ダニエルさんは、「オヤオヤ、うちのバアサン、託児所でも始めるつもりかね」と言いながらも、いつもニコニコ顔で私たちを迎えてくれるのでした。
おじいさんの方はいつまでたっても私たちの名前を覚えることができませんでしたが、おばあさんの方はすぐに私たちの名前を覚え、これはグレースに、これはペギィーに、これはリンダにと名前を呼びながらクッキーを手渡してくれるのでした。 きっとおばあさんはクッキーを焼くのにとても忙しかったことでしょう。
ダニエルさんのコリー、“バンジー”は学校が引ける頃になると、校舎の外で私たちを待ち、ダニエルさんの家まで一緒に帰るようになりました。
-…つづく
第11回:カントリースクール その2

