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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第733回:自閉症の子供を持つ親たちへ

更新日2021/11/18


アメリカの北西部をキャンプ旅行したついでに、甥っ子のマックスの赤ちゃんに会ってきました。その旅の目的の半分くらいは、赤ちゃんに会うためでした。世代も変わってきたというのか、男女関係、結婚観が変わったのか、甥っ子のマックスはとてもチャーミングで、ほとんどテレビのタレントになるか、ミスなんとかコンテストに出場してもおかしくないメキシコ系美人の女性と同棲し、彼女との間に女の赤ちゃんができたのです。玉のような子とはこのことを言うんだろうな~と思いました。混血がうまくプラスに出たと言っていいでしょうか。

二人は子供ができても結婚する気配はなく、彼女の両親も、私の兄夫婦も当たり前のことのように、若い二人の同棲、出産を受け入れています。

彼女には8歳になる男の子がいて、その子(日本では連れ子と呼ばれるのですね)が“オーティズム(Autism)”、日本語でいう“自閉症”なのです。自閉症というと、言葉の響きの中に、閉じ篭り、社会的に不適応、まったく空気を読めず、他の人とのコミュニケーションができない暗いイメージが付きまといます。でも、彼の場合はとても外交的で、誰にでもすぐにナツクし、素直な性格で、ともかく明るいのです。

何が問題かというと、注意力が散漫というのか、例えば、食卓についている時、彼に「コップに水を入れて持ってきてちょうだい…」と頼むと、とてもいい返事をして、すぐに台所に直行するのですが、椅子から立ち上がり、台所のカウンターの上に彼がそれまで見たこともない道具、ミキサー、オープントースター、フードプロセッサーなどがあると、そっちの方に気が行ってしまい、元々機械や車が大好きなので、動かしてみないことには気が済まないのです。もうコップの水なんか、彼の記憶から消え去っているのです。

それはフードプロセッサーと言って、野菜を細かく砕くものだと説明し、「コップに水を入れて持ってくるのを忘れないで…」と指摘すれば、アア、そうだったと、すぐに思い起こし、「コップはどこにあるの?」と良い返事が返ってくるのです。「カウンターの上の棚、左から2番目の扉を開けてごらん、そこにあるはずだよ」と教えると、すぐに椅子を引っ張ってきて、登り、その扉を開けるのですが、その棚に面白い図柄のマグカップ、コーヒーカップがあると、もういけません。水用のコップ、グラスのことなどソッチノケで、棚にあるものすべて引っ張り出さないと気が済まないのです。

彼の場合、注意力が散漫というのか、持続時間が極端に短いのです。それでいて、大人、母親、マックス、私の兄夫妻、彼のお爺さん、お婆さんの言うことはよく聞くのです。程度の差こそあれ、注意力の持続時間が短い人はいるし、様々なタイプのオーティズムの症状があるし、どこにオーティズムであるかのラインを引くのは難しいことでしょう。

妹のローリーが、彼の誕生日プレゼントにフェラーリのプラモデルを送ってきました。かなり複雑なプラスティックのオモチャを自分で組み立てるものです。私たちが食事をしている間、まずはバリバリと包み紙を乱暴に破り、箱を取り出し、それから細かい字で組み立て方を説明してあるマニュアルを丁寧に読みながら一つひとつ順番に組み立て始めたのです。汗をかき、顔が赤くなるほどの集中力を2時間以上に渡り発揮したのです。自分の大好きなこと、彼の場合は“車”ですが、に対して、彼は異常なほどの集中力を見せ、それを持続できるのです。

私の従兄弟デイヴィッドもその系が大いにあり、小さい時からずいぶんイジメに遭ってきたようですが、幸い彼は体が大きく、強そうに見えるようになったので、中学校の高学年からはイジメに遭うことなく、彼自身も怒りをある程度抑えることができるようになってきて、60歳近くになる今まで自活しています。

デイヴィットの記憶力は、本人が興味を持った事柄に限られていますが、唖然とさせられます。彼は60年代、70年代のロック、ポップスが大好きで、例えば1968年11月のビルボードトップ10が何であったか、などはお茶の子さいさいで答えることができるのです。事細かな質問、ジャニス・ジョッフリンが最初のアルバムを録音した時のサイドギタリストの名前などなど、スンナリ言えるのです。ウチのダンナさん、「オイ、オレは今朝何を食べたかも思い出せないぞ、あいつの頭、ありゃ一体どうなっているのだ?」と嘆いています。

ですが、デイヴィッドの社交性、社会性はゼロに等しく、空気読めないの局地を行っています。それどころか、職場の人が空気を吸えない状態にし、前の仕事でクビを切られています。

デイヴィッドはテレビショッピングの電話を受ける仕事をしていました。きっとその事務所の換気が悪かったのでしょう、お腹の張った大男デイヴィッドが、処構わず盛大にオナラをし、大気汚染をしたあげく、同僚が同じ事務所で働くのは御免だと言い出したのです。デイヴィッドには、体から自然に?放出されるオナラが他の人に影響を及ぼすなど想像もしなかったでしょう。周りの人がチョット注意してあげれば、トイレまたは廊下に出てガスを放出したことでしょう。デイヴィッドはオナラのせいで職を失ったのです。


オーティズムの中には、多くの天才がいるのではないかと思います。
『タイムマガジン』(2017年8月7日号)に日本人、ヒガシダ・ナオキさんの記事が一面で報じられています。ナオキさん、オーティズムでも人と会話を交わすのが苦手で、口から言葉が出てこないタイプの症状の持ち主でした。ですが、言語障害があるわけでなく、読解力、表現力もあり、とても豊かな語彙を持っていることは彼がたくさんの本を書いていることから知れます。そうなのです、彼は20冊以上の本を出版しているのです。

この度、『七転び八起き』(The reason I jump and fall down 7 times Get up 8)というタイトルの本を出し、その時にインタビューで、子供の時にはお前はアホか、知恵遅れかと言われたこと、自分が他の人と違うことを見つけてから、それを逆手に取るように、物事を考え、創作を始めたことなどを語っています。

その中でも、オーティズムの子供を持つ親への忠告として、「オーティズムは不幸なことでなく、ましてや障害でないこと、確かに他の子と異なることで、壁に突き当たり、困難な状況に陥ることもあるでしょう。でも、いつも微笑みを持って子を見つめ、その子と良い時間を持つことを心掛けることです。私のようなオーティズムの人間は愛されることを感じ、それに立ち向かう勇気を持つ時、欝や悲しみを乗り越えることができるのです…」と、考えさせられることをサラリと言っています。

甥っ子のマックス、同棲している女性とオーティズムの子、それに生まれてきた赤ちゃんが、愛情溢れる家庭を築き、オーティズムを乗り切っていくことを強く願わずにはいられません。

-…つづく 

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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