第726回:コロナワクチンは政治問題、人種問題か?
私の身内にコロナ感染者が二人出ました。甥っ子は去年の5月に感染し、自宅で監禁療養し、半月後にはPCR検査で保菌者でなくなったことが明らかになりました。彼の場合は若さのせいか、体質的に免疫、抵抗力があったのか、症状もちょっとした風邪程度でした。
しかし、もう一人従兄弟の方は63歳でしたし、体質的なものなのか、緊急集中治療室で数日生死をさまよい、意識が戻った時に更に心臓麻痺を起こし、またまた危機に陥りました。その時、彼がまだ集中治療室にいたことは幸運だったと思います。心臓麻痺は起こってから対処するまでの時間が大きなカギになるので、その病院ですぐに治療を開始し、3日後にはしゃべれるようになり、短いメールのやり取りもできるようになったのです。でも、まだ酸素チューブを鼻に入れ、お腹に穴を開け、胃に直接食べ物や栄養剤を流し込んでいる状態です。歩けるようになるまで、これから長く厳しいリハビリをしなければなりませんが、ともかく命を取り留めたのです。
私たちがいくら人里離れた森の中に住んでいるとはいえ、コロナ禍は他人事でなくなってきました。なにせアメリカでは連日15万人もの感染者が確認され、総計で4千万人以上も感染しているのですから、そのうちに感染者数がアメリカの全人口を上回るのではないかと…さえ思えます。
誰でも予想していましたが、デルタ変異株の次の変異株が現れました。中でも勢力をのばしているのはMU(ミュー)変異株です。ワクチン接種とコロナ変異株のイタチゴッコは、どうも新型コロナの方が様々に型を変え、試合を優勢に推し進めているような気がします。
デルタ変異株が優勢なのは、生物学的にそれに対抗するワクチンの有効性の問題ではなく、多分に私たち人間の心理に関わっているからです。いまだに膨大な数のワクチン接種に絶対反対する人、グループがいます。アメリカの特徴と言い切って良いと思うのですが、何でもすぐに政治に結び付けるのです。
これは純粋に医療の問題で、その医療システムをバックアップするのが政治力の在り方だと思うのですが、保守的なキリスト教原理主義者、新興宗教のグループを中心に、ワクチン接種は神様が与えたもうた身体に人工的なモノ、化学薬品を入れることになる、神を信じていれば、我々の身体は神が守ってくれる…というのです。
危うく死にかけた従兄弟もやはりそのような宗教に凝り固まっていましたから、当然ワクチンを受けていなかったでしょう。いざ救急車で病院に担ぎ込まれてから、ありとあらゆる“人工的”医療処置がとられ、神様のおかげではなく、現代医学のおかげで助かったのですが、喉元過ぎれば何とやらで、彼の信心は変わらないでしょうね。
アメリカは人種の坩堝の国ですから、すべてに州ごと、人種ごとに感染者の大きな差が出てきます。今、9月でメーリーランド州のワクチン接種率は83%ですが、南部ルイジアナ州では20%以下と大きなギャップがあります。大雑把ですが、テキサスを含めた南部はワクチン接種率が低く、北部は高いという傾向があります。
データーを集計するのに時間がかかるのでしょうか、CDC(Centers for Disease Control and Prevention;病疫統制予防局)の5月の発表になりますが、コロナ禍で50歳以上で死亡した人の95%は黒人とラテン系(ヒスパニックと呼ばれているメキシコなど中南米系の人)なのです。これでは、もしあなたが50歳以上の黒人かヒスパニックでコロナに罹って、病院に担ぎ込まれても、死ぬのが約束されているようなものです。
また、集中治療室に入る重症患者数はアメリカインディアンが白人の3.5倍、ヒスパニックで3倍、黒人は2.8倍で圧倒的に有色人種(奇妙な言葉です。恐らくカラードcolored の訳だと思うのですが、そうなると私たちコーカソイドは無色人種と呼ばなければならず、透明人間になってしまいます…)が重症に陥る率が高いのです。
ウチの色付きダンナさん、「おい、万が一、俺がコロナで収容されても、黄色い肌の爺さんなんか後回しにしろ、とヤラレルんだろうな…」と溢しています。彼の心配を裏付けるように、コロナよる死亡率も乱暴に種分けすると、白人に比べ有色人種は2~2.4倍の高さなのです。
これは、ワクチン接種率が人種によりというより、肌の色により大きく異なる結果とも言えます。今、現在、街中にある薬局へ行けば、どこでもいつでもワクチンを受けられるのですが、接種率は白人が63%を上回っているのに、アメリカインディアン(原住民)は1%、黒人は9%、ヒスパニックで13%、ウチのダンナさんが入るカテゴリーのアジア人で6%と、唖然とするくらいの差があるのです。
どうしてこのように大きな差が人種によってあるのか、納得のいく説明を聞いたことがありません。ただ想像するだけですが、全般に黒人、ヒスパニックは貧しく、健康保険を持っていない人が多く、病院慣れしていないので、政府がいくらワクチンは無料だと言っても、病院に駆けつけない…ということはあるでしょう。それに、医療に対する知識が不足していて、地域に根ざした保険医が極端に少ないことも理由の一つでしょう。
インディアン居留地区内の保険医、黒人、ヒスパニック居住地区、早く言えばゲットーの中に保険医がいないか、ほとんどおらず、住民も突然外からやってきた政府の医療関係者を信用していないという事情もあるでしょう。インディアン居留地では、合衆国政府がインディアンの撲滅を図っている、インディアンを消滅させるためのコロナワクチンだ…と信じているインディアンのインタヴューがテレビのニューズに流れました。
実際に、アメリカ政府はインディアン政策で過去にそのような処置を取った前科があるので、一概にそんなことを信じているインディアンに、今回のコロナワクチンは違うのだ…政府はそんなことを意図していない…と納得させる難しさがあるのだと思えます。
大都会の救急医療施設では、対応できる感染者の数は、そのような設備のあるベッド数に制限されます。誰か死んで集中治療室のベッドが空くまで、担ぎ込まれた感染者は廊下に転がしておけとは言わないでしょうけど、受け入れる病院が殺人的に忙しいことは認めるにしても、空きベッドに誰を入れるかはお医者さんの判断にかかってきます。そんな時、無意識に白人を優先し、ウチのダンナさんのような色付き老人は、どうせ長いことはないのだからと、後回しにされる事態がないとは言えません。
ニューヨークのさる病院のお医者さん、疲れ果てた様子で正直に、毎日救急車で運ばれてくるたくさん感染者の中から、誰を優先させるかの選択をしなければならない、重傷感染者で助かる見込みがない人、若くて自然治癒力があると思われる人、発病したばかりで今なら助けることができるであろう人、誰を緊急治療室に入れるか、酸素吸入だけにするか、その選択に自然、人種が絡むことは大いに有り得る、と語っていました。
一寸先は闇とまで言いませんが、コロナに関しては、人は皆、“明日は我が身”の毎日なのでしょうね。
-…つづく
第727回:日本化?するアメリカの若者たち
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