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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第698回:今年の“雪ヤギグループ” その2

更新日2021/03/11


もう一人、膝の手術をした仲間がいます。ニューヨークに住むボブです。ボブは“雪ヤギグループ”の女性、ということは相当な御歳を召しているけど、可愛らしい泣き顔のスーと結婚したばかりです。同じスキー仲間にいた旦那さんを亡くし、旦那さんの旧友、スキー仲間であったボブと再婚したばかりの熟年ハネムーンナーです。スキーが取り持つ縁です。

二人とも私たちより相当高いレベルのスキーヤーで、昨年ウチのダンナさんが、膝と腰の問題をボブとスーに相談したところ、「腰の方はリハビリと運動で持ち直せるけど、膝は筋肉ではなくて腱(スジ)だから、修復不可能だぞ、大事に使うより他に手はないんじゃないか…」と厳しい忠告をしてくれました。そのご当人ボブが、人工関節を膝に入れたのです。どうにも老人の膝に明るい未来はなさそうなのです。古い車と同じように、歳をとった身体は度重なるメインテナンスが必要になってくるもののようなのです。

テキサス組、ジェリーも去年深雪で転倒した時の右太ももの負傷が長引き、今シーズンのスキーは取りやめました。当初、筋肉の打ち身程度と思っていたようですが、筋を伸ばしてしまい、回復に時間がかかっています。

テキサスからのもう一組、リーとバーブも来ませんでした。バーブはNASA(米国航空宇宙局)のエンジニア、リーは小学校の先生でした。二人とも80に手の届く歳です。車、モーターバイク、機械、おもちゃ?の好きなボブが、モーターバイクで派手に転び、流され、止まっていたトラックの下に滑り込んだと言うのです。

元々素晴らしく頑丈で、絵に描いたようなテキサス大男のバーブは、おまけに歳とともに身体全部に贅肉が付き、お相撲さん並のヘビー級でした。彼がリフトに乗ると、その部分のワイヤーロープがガクンと下がると言われていました。バーブなら下からトラックを持ち上げ自力で這い出たのではないかと雪ヤギグループではウワサしています。が、結果、両足複雑骨折で今年、雪ヤギグループには参加できませんでした。

地元、しかもこのスキー場近くに家を持っている仲間はそれなりに健在で、朝一番乗りを目指して車を乗り入れる顔ぶれはこの人たちです。キースとヘイワンは決まったルーティーンで、水曜日と日曜日はスノーモービル、土曜日は休み、ほかの月、火、木、金の4日間はスキーというスケジュールで動いています。

キースは引退したイギリス人船長で、スピード狂に近い機械、ハイテックマニアで、自分の好みに合った赤に塗らせたモーターサイクル3台、イギリスのトライアンフ、イタリアのドカッティ、そしてヤマハの大型バイクを持っており、去年買ったばかりのジープも同じ色に塗っているだけでなく、スキーのジャケットも同じ赤とコダワリを見せるのです。奥さんのヘイワンは韓国系のアメリカ人で、静かで大人しい人柄ですが、自分の意思、好き嫌いをはっきりと包み隠さず表します。大男のキースが小柄以下のチビのヘイワンのスキーを運んでやったり、マメマメしく面倒を見てやっているのを見て、ウチのダンナさん、「オイ、俺もああしなきゃならんのかな~、アテられるな~」とのたまっていますが、実際の行動を起こすには至っていません。

雪ヤギグループは皆さん相当裕福な人たちばかりで、私たちが群を抜いて貧乏です。私たちが使っている、スキーはすべて救世軍の古道具屋で仕入れたもの、スキー靴もしかり、スキーは最新モデルの道具、ウェアに拘りさえしなければ、とても安上がりなスポーツなのです。私たちは、とりわけウチのダンナさんは、他の人の目を全く気にしない、気にならないタイプです。

でも、他の人、雪ヤギグループのメンバーは、私たちの装備をツブサに観察しているようで、ダンナさんのいかにも安物のスキー靴を見て、キースが「これ足に合うなら使ってみてくれ…」とくれたのです。それがピッタリと足に合い、大喜びの様子でした。「俺の足は柔軟性に富んでいるから、足のサイズを靴に合わせることができるんだ…」と、大そう高級なスキー靴に大満足しています。私のスキー靴は地元のリサイクルショップで水曜日に半額セールになったのを10ドルで買ったもので、これまたほとんど新品、しかも私のサイズでした。

そして、ヘルメットです。キースが、「お前たちを観ていると危なっかしくてしょうがない。骨はくっ付くけど、頭骸骨とその中身の脳は一度ダメージを受けたら最後だぞ…」と、真新しいヘルメットをダンナさんの頭にのっけてくれたのです。私の方は、パウラという、小柄なスキー仲間が、新しいジャケットに合わせてヘルメットも買い換えたからと、今まで使っていたのを私にくれたのです。スキー・ファッションはヘルメット、ジャケット、ズボン、それにスキー靴の色とモデルまでのコーディネート・ファッションのようなのです。

なんだかこう書くと、あなた方は乞食スキーヤーではないかと思われそうですが、本当にそうなんですからしかたがありません。

人口関節といえば、一本足のジムの良い方の膝にも人工関節を入れています。と書くと、スキーは老人にとって、体を壊すためにやっているみたいに聞こえてしまいます。スキーなど見向きもしない人たちにも人工関節を入れている例がとても多く、そんな人と比べ、老スキーヤーは少なくとも、使える体を存分に使って人生を楽しんでいるように見受けられます。ウチのダンナさんは去年左の膝を痛めました。ほとんど自分の身体の不調を訴えたり、愚痴をこぼしたりしないタイプですが、少し泣きが入っていました。でも、「ジムを見ろ、俺はたとえ一本足になってもスキーは続けるぞ!」と宣言し、夏の間、自転車をこぎ、足先に錘をつけ膝を曲げ伸ばしする運動を繰り返し、なんとか今シーズン2本足でスキーができるように持って行きました。

そんな話を一本足のジムにしたところ、「まだ、足が2本あるんだから、膝を支える筋肉を鍛え、大事に使うこったな、ゆめゆめ、一本足でも良い、などと思わないこった」と諭されました。「俺も、ナンシーがいるからこうして長距離ドライブで、このスキー場に来られるし、毎日をどうにか過ごせるけど、彼女がいなかったら、すべてが相当難しくなるな~」と、ナンシーがジムの失われた右足の役割を果たしていることをホノメカスのです。

ヨットで水上生活をしている時、長年ヨットで暮らしている夫婦は仲が良いことに気づきました。そうでなければ狭い船で24時間顔を突き合わせていることなどできません。この雪ヤギグループも圧倒的に老カップルが多く、独り者は二人だけで、後は皆夫婦者であることに気が付きました。そして、老カップルは皆とても仲が良いのです。

私としては、精々、二本足の超後期高齢者であるダンナさんを大切にすることにします。
それを彼が分かってくれているか、すこし疑問ですが…。

-…つづく

 

第699回:西欧人は空間畏怖症!?

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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