第742回:雪ヤギグループとの再会
新雪につられて3泊4日のスキーに行ってきました。今月末からひと月、山篭りしてスキー三昧するのですから、なにも今行かなくても良さそうなものですが、雪男のダンナさん、フレシュな雪を見ると異常に興奮し、「オイ、初滑りとしゃれこむべや…」と居ても立ってもいられない様子なのです。私もつられて、彼の口車に乗った型で、初滑りを存分に楽しんできました。
駐車場に車を止めるより早く、私たちを大声で呼ぶ声があり、新型コロナを無事に乗り越えたグループの面々が顔を揃えていたのです。懐かしい“雪ヤギグループ”と再会したのです。テキサスからのリーとバーブ、地元のスキップとパット、キースとヘイワン、長老格でロッキーにこの人あり、と知られているちょっとした有名人(勇名と言った方が当たっているかも)のアートとリンダ、来ていなかったのは一本足のジムとナンシーだけだったでしょうか。
この“雪ヤギ”と私たちが名づけたグループ、老人スキー愛好会のメンバーの明るさ、ポジティブな考え方、生き方にはいつも感銘を受けます。好きなことを積極的に、一生懸命やってきた人たちの達観した精神を持っているのでしょう。それがスキーだけでなく、今までの彼らの人生においても、貫かれているように観えます。
ロッキー山脈でチョットした有名人のアートとリンダは、83-84歳になりますが、アウトドア人生を諦めるどころか益々拍車がかかり、アートがデザインし造った釣り船(彼は飛行機2機、ヘリコプターまで自作していますから、釣り船なんかお茶の子さいさいだったのでしょう)で釣り三昧、お気に入りの湖畔に大きなキャンパーを据え、ひと夏そこで過ごし、それからアートが言う“新型コロナに犯されていない唯一の大陸、南極”に行き、帰ってきたばかりでした。
ウチのダンナさん、南極でスキーをしたのか? 極点まで行ったのか? 南極は最高の雪質だというではないか、とチャチャを入れると、アートは、「いやー、膝に人工関節を入れたばかりだったから、登りはキツイ。南極大陸にスキーリフトができたら、お前も一緒に行こう!」と切り替えしていました。リンダの方は、全米のスキー、スノーボードの教師、イントラクター用のテキストを書き、彼女自身もデモンストレーターとして、数々の映画、ビデオ、DVDに納まっています。
元大型船のキャプテンだったキースと奥さんのヘイワンは、コスメル、ブエナエアーと、カリブ海でスキューバーダイビングに出かけていました。世界中のダイビング・ホットスポットで潜った経験を持っていますが、今回は飛行機の中での感染を考慮し、近場にしたと言っていました。イギリス人のキースは、2年前、ウチのダンナさんにスキー靴とヘルメットをオサガリしてくれた人です。「お前がいくら石頭でも、大木や岩の方が固いぞ…」とか言いながらヘルメットをダンナさんの頭にのっけてくれたのです。
彼らはスキューバーダイビングに凝っていて、キースによれば、「海中で新型コロナには感染しないからな…」と言っています。そして、海中の生態を鮮明な映像に映してくるのです。それはまるでプロの水中カメラマンが撮った映像のように奇麗なのです。しかも、単に水中カメラで動画を撮っただけなら、よくあるFacebookやYouTubeの掲載になってしまいますが、彼はそれをマリーンライフの生態に焦点を据え、10分の1くらいの長さに編集し、イメージに合った音楽を付け、ため息が出るほど流れるような小品に仕上げているのです。奥さんのヘイワンによれば、海に潜っている時間と同じくらいか、それ以上の時間を部屋に閉じ篭り、編集に集中している…のだそうです。
スキップとパットは渓流下りが夏場の趣味で、そのためにアーカンソー川が狭い峡谷になり、曲りくねり、両岸を削り、激流になっているのを見下ろすところに別荘を建て、アウトドア活動の基地にしています。グランドキャニオンと並ぶコロラドの渓流の名所になっているローヤル・ゴージの手前の村ハワードです。スキップはその村、町の町長さんを務めていたことがあります。デンバーの家の方が別荘になってしまい、何日寝たかな~と数えるほどしか使わなくなってしまったと言っていました。
彼ら、スキップとパット両者とも樽のような体をしています。こんなに丸い体でスキーができるのか、二人がリフトに並んで乗ると、その部分のリフトを吊っているワイヤーがグンと下がると噂されているほどです。ウチのダンナさんは、「スキップとパットはオクトーバー・フェス(10月にある収穫祭、ビール、ワインのお祭り)でビヤ樽ポルカを踊るのにピッタリの体型だ…」と酷いことを言っています。ところがいざスキーを始めると、それはそれはアザヤカな滑りを見せるのです。深い雪をかき分けるように木立の間をスイスイと気持ちよさそうに縫って降りてくるのです。
テキサスからやってくるリーとバーブのリーの方ですが、暴走族かヘルスエンジェルもどきの超大型モーターサイクルを乗り回すのが趣味で、夏の間は愛用のハーレーダヴィッドソンに跨りツーリングをしています。おそらく80歳近いか、越しているでしょう。テキサス人ですから、当然大男で、十両のお相撲さんと並んでも遜色ないでしょう。頭はウチのダンナさんと良い勝負の白髪、脂ハゲです。
その彼が足を引きづって歩いていたのです。バイクで大転倒をやらかし、横滑りのまま大型トラックの下に突っ込み、当然、ハーレーダヴィッドソンは大破、身体の方も、左肩、腕、脚、腰と打撲骨折の重傷でした。なんでも彼をトラックの下から引きずり出すために、クレーン車を呼び、トラックを持ち上げなければならなかったそうです。雪ヤギグループでは、トラックだけでなく彼を持ち上げるのにもクレーンが必要だった…とウワサしています。見ると、左脚は太ももから膝、フクラハギまでグルグル巻き、肩にもアメリカンフットボールの選手が着けるようなプロテクターと、一体そんな体でスキーができるのか、万が一転んだらどうするのだ…、とコッチが心配するほどのコンディションなのです。そんな私の気遣いをあざ笑うように雪ヤギグループの誰かは、「またクレーンを呼べば良いさ、それでなければヘリコプターという手があるさ…」と言っています。
雪ヤギグループの老人たちは、揃いも揃ってあきれるくらい異常にタフなのです。好きなことをヤル情熱が煮えたぎっているのです。彼らは細々と転ばないで老後を過ごすというような感覚を持っていないようなのです。常にその時、その瞬間に生きているのでしょう。彼らが一様に持つ楽観的な明るさは、積極的な行動力に繋がっているのでしょうね。
ダンナさん、「俺たち、スキーのレベルだけでなく、生活全般、あいつらの生き方を見習い、もっとマジメに、真剣に、一生懸命に遊ばなきゃならんな~」と、今まで遊んでこなかったようなことをノタマッテいます。
ダンナさん、これからは今まで以上に、何でも遊び、楽しむことに結び付けそうです。
-…つづく
第743回:美味しい空気
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