■挨拶は「もうごはん食べた?」 〜バンコク街角通信

増成 ヒトミ
(ますなり・ひとみ)


1968年生まれ。埼玉育ち。大学卒業後勤め人を経て、97年からタイのバンコク在住。几帳面を絵に書いたような性格が、タイに来てから後天性マイペンライ症候群に。「ヒトミのバンコクな毎日」もどうぞ。




■連載完了コラム
■My Bangkok Life
〜暮らしてわかったマイペンライの国
 
[全29回]


■更新予定日:隔週木曜日

第1回:挨拶は「もうごはん食べた?」

更新日2003/07/03


「ギン・カーオ・ルー・ヤン?」
タイ語で「もうごはん食べた?」という意味だ。これは日本人が交わす、「今日はいいお天気ですねえ」と同じレベルの挨拶に属する。当たり障りがなく、そして誰にでも理解できる。

当たり前のことだが、熱帯気候のタイは一年中暑い。気候の変化というのは日本のそれより乏しく感じられる。実際には季節の変わり目というのが微妙に存在するのだが、出会い頭の挨拶に、お天気の話題を持ち出すことは少ない。

6年半ほど昔、わたしは都内のあるタイ料理レストランに足繁く通っていたことがあった。料理を食べたいのはもちろんだったのだが、習い始めたばかりのつたないタイ語の上達度合いを知りたい気持ちの方が勝っていたと思う。そこには留学生のタイ人が数人いて、週に1回のペースで通ううちに、わたしはたちまち彼らと仲良くなっていった。

店が閉まる午後11時、従業員の彼らは遅い夕食を取り始める。客のわたしはとっくに食事が終わっているのだが、彼らと話がしたいばかりになんとなく帰りそびれていると、彼らが、「ギン・カーオ・ルー・ヤン」と言って、従業員用の賄い料理を出してくれるのだ。

「食事をしにきた客に、『ごはん食べた?』もないもんだ」と思いつつも、ありがたく御相伴させてもらう。出される料理はメニューに載っていない料理ばかりで、気取りも豪華さもないがとてもおいしかった。


カノムヂーン・ナムヤーガイ
(鶏肉入りココナッツカレーそうめん)

ほぐした魚の身が入ったカレー汁をそうめんにかけて、香りの強いハーブや生野菜を薬味として加えながら食べるカノム・ヂーン。粘りがあるお粥にレバーや腸といった内臓がたっぷり入った、しょうがの千切りと浅葱を散らして食べるヂョーク。余った食材をどさっと入れたタイの鍋もの、タイスキ。鶏の手羽先の関節の軟骨部分だけを切り落とし、唐揚げ粉をまぶしてからりと揚げたコー・ガイ・トート、……。

仕事が終わった彼らとそれらの料理をつつきながら、「ああ、これがタイの普通のごはんなんだ」と、しみじみ思った記憶がある。

そして、今。わたしはタイのバンコクに住んでいる。

友人づてに、そのレストランは店長が変わり、それによってスタッフもほとんど変わってしまったと聞いた。あの庶民的な賄い料理も、それを一緒に囲んだ気さくなスタッフたちとも、もう二度と会うことはないのが残念だ。

タイでごはんを食べるなら、こぎれいなレストランでかしこまって食べるより、道端の屋台で空を見上げ、風の匂いを感じながら食べる方がずっとおいしい。そこで出される普通のごはんは、タイの庶民の強い味方であり、またわたしの日々の活力源にもなっている。

 

 

第2回:果物で知る季節

 
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