第8回:記憶の中の混ぜご飯―カーオ・クルック・カピ―
更新日2003/10/09
わたしは真っ白なご飯より、味がついているご飯の方が好きだ。日本でいうところの炊き込み御飯や混ぜご飯、炒飯の類の方が箸が進む。おかずとご飯を順に口に入れ、口の中で咀嚼しながら混ぜる食べ方は日本独特のものらしいが、それよりもすでに混ざっていたものを頂く方がおいしい気がするのだ。
タイ料理でもそれは同じ。白いご飯に好きなお惣菜をかけてもらうのもいいけれど、具と調味料とご飯が三味一体となって、きっちり混ざっていた方がなぜか気持ちいい。
カーオ・クルック・カピ(海老味噌の混ぜご飯)という料理がある。カピという海老味噌をご飯と一緒に混ぜ炒め、その上に錦糸玉子、生玉ねぎ、青マンゴーの千切り、甘辛く煮付けた豚の三枚肉、干し海老、生唐辛子、胡瓜を乗せる。パイナップルが乗っているところもある。

カーオ・クルック・カピ(海老味噌の混ぜご飯)
これにライムをひと絞りして、すべての具を皿の上で混ぜ合わせて口に運ぶのだ。ご飯に混ざった海老味噌の風味に、乗せられた具のそれぞれの味がうまく調和する。青マンゴーの量が多い方が酸味が利いていい感じだ。
この料理を最初に目にしたのは、確かタイに来て数ヵ月ほどした頃だったと思う。日本で知り合ったタイの友人の、そのまた友人という人が、「仕事先を紹介してあげる」という名目でわたしを訪ねてきた。その日の夜、彼とわたしの友人も含めて、4人で夕飯を食べに行ったときに彼が注文したのがこのカーオ・クルック・カピだった。
そのときわたしたちは、取り分けて食べる種類の料理を何品か注文していたのに、彼は食卓の上の料理にはまったく手をつけずに、一人でこの料理を食べていたのだ。それはわたしの目にはすごく場違いな感じに映った。彼は食べながら、「これは南部タイの名物料理です。この料理を食べると肌が黒くなると言われます。それは南部の人が肌が黒いからなんですよ」と言った。それが本当かどうかは知らないが、カピは南部タイの特産品であることは確かだった。
あとでわかったことだが、彼は、「仕事を紹介してあげる」どころか、「良い仕事があったら紹介してくれ。あと日本人女性の友人がいたら紹介してくれ」と、とにかく失礼な人だった。しかも、そのときの夕飯代は、「財布を忘れてきた」という理由で、わたしの友人に払わせる始末。
彼は単に、わたしという日本人をカモにしたかっただけなのだろう。もう会うこともないし、名前も顔もすっかり忘れてしまったが、カーオ・クルック・カピと彼とは、わたしの記憶の中でいつまでも結びついているのである。
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