■挨拶は「もうごはん食べた?」 〜バンコク街角通信

増成 ヒトミ
(ますなり・ひとみ)


1968年生まれ。埼玉育ち。大学卒業後勤め人を経て、97年からタイのバンコク在住。几帳面を絵に書いたような性格が、タイに来てから後天性マイペンライ症候群に。「ヒトミのバンコクな毎日」もどうぞ。


第1回:挨拶は「もうごはん食べた?」
第2回:果物で知る季節
第3回:懐かしきふるさとの味
―ソムタム―

第4回:インスタント麺のサラダ
―ヤム・マーマー―

第5回:タイ風洋食?
―パット・マカロニー―



■連載完了コラム
■My Bangkok Life
〜暮らしてわかったマイペンライの国
 
[全29回]


■更新予定日:隔週木曜日

第6回:ほかほかご飯に卵焼き―カイ・ヂヨウ―

更新日2003/09/11


“卵は物価の優等生”という言葉を聞いたことがある。卵の価格は時代や景気にあまり左右されず、一定の価格幅を保っているとそういうことらしい。栄養価も高くて、10個入りのパックが100円前後で買えるのだから、主婦向け雑誌のコピー風に言えば、“給料日前のお助け食材”なのはうなずける。

タイでも卵は“物価の優等生”とまではいかなくとも、庶民の強い味方なのは変わらないと思う。市場で買えば1個約2バーツ。今どきバンコクで2バーツで買えるものってあるだろうかと頭をひねってみるけど、道端の煙草屋台にある二つで1バーツのキャンディくらいしか思い浮かばない。

タイの卵焼きは日本のそれと違って、油をたっぷりひいた中華鍋の中で、揚げるようにして作られる。どうして焼かずに揚げるのかと知り合いのタイ人に訊ねたら、「これは勝手な推測だけど、欧米式のオムレツのようにして食べるのは、ご飯と合わないからじゃない。ほかほかのご飯に揚げ立ての卵焼きをのせれば、それだけでもう何も要らないくらいおいしいもの。」という答えが返ってきた。

それにさらにわたしの勝手な推測を付け加えさせてもらえば、揚げるという調理法は高温で加熱できるので殺菌効果があるというのと、まんべんなく火を通しやすいという利点が考えられる。材料の中に水分が少なければ保存も利く。タイの人は特別意識していないかもしれないが、わたしは密かに熱帯の国ならではの先人の知恵だと思っている。

「揚げる」というタイ語は「トート」だが、なぜかこのタイの卵焼きは「カイ(=卵)・トート」ではなく「カイ・ヂヨウ」と呼ばれる。「ヂヨウ」も同じく、「揚げる、フライにする」という意味の言葉だ。何を揚げれば「トート」で、何を揚げれば「ヂヨウ」なのか、タイの人にも明確な区別はつかないようだ。わたしの知る範囲では、卵とにんにくは「ヂヨウ」だが、他のものは「トート」が使われている。


カーオ・カイ・ヂヨウ(タイ風卵焼きとご飯)

このカイ・ヂヨウ、ナンプラーで味をつけただけのプレーンもあるが、いろいろな具を入れたものもある。豚挽き肉、蟹肉、牡蠣、浅葱、トマト……。わたしは玉ねぎの薄切りを多めに入れたのが好きだ。火が通った玉ねぎは甘みが出て、卵にまとわりついた油とからんでとてもおいしい。これにピリッとしたチリソースをつけて、ご飯に乗せて口に運ぶ。

前出の知り合いに言わせると、「その日のおかずがあんまりおいしくなくて皆の箸が進まないとするじゃない(スプーンとフォークでごはんを食べるタイで、“箸”が進まないという表現が相応しいかは疑問だが)。そうすると、『カイ・ヂヨウでも作ろうか』ってことになるのよ。それでご飯を食べる方がずっとずっとおいしいの。」ということらしい。

ちなみにカイ・ヂヨウはタイの子供たちが大好きなおかずの一つだそうだ。ふわっとふくらんで外側がパリパリッと香ばしいのが最高なんだとか。

昨年頃からバンコクに、このカイ・ヂヨウ専門のテイクアウト用屋台がお目見えした。目の前で揚げてくれるカイ・ヂヨウは舌がやけどするほど熱く、香ばしい香りが漂っている。これをスチロール容器に入ったご飯に乗せたのがたったの10バーツ(約30円)。一般の屋台では、1食が安くても20バーツするこのご時世に、10バーツのカイ・ヂヨウご飯は安い、早い、おいしいと三拍子揃ったタイ版ファーストフードの優等生なのだ。

 

 

第7回:タイといえばやっぱり?―トムヤムクン―

 
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