第3回:懐かしきふるさとの味―ソムタム―
更新日2003/07/31
バンコクはタイの中でも異質な街である。タイという国の中に、もう一つ“バンコク”という国があると考えた方がよいかもしれない。世界有数の交通渋滞。市場や屋台の人々の熱気に活気。混沌。猥雑。奔放。東南アジアのパワーが、これでもか、これでもかと、わたしたち外国人の頬を打つ。溶けそうな暑さの中で頬を打たれて目が覚めたその瞬間、刺激にとりつかれてタイの虜になる。
バンコクはまた、地方からの出稼ぎ労働者が集まる街である。北から、南から、はたまたカンボジアやラオスといった地続きの近隣諸国からもその出稼ぎ労働者はやって来る。
イサーン地方と呼ばれるタイの東北地方からもまた然り。生粋の都会っ子からは一段下という感じで見られてしまうイサーン地方出身者。田舎者の代名詞といってもいいだろう。アクセントの異なる言葉。朴訥とした気質。日本の東北地方にも通じる部分があると感じてしまうのは、わたしが関東の出身だからだろうか。

ソムタム・カイケム(塩漬け卵入りのパパイヤサラダ)
そのイサーン地方の料理の中で堂々と全国区になったのが、ソムタムと呼ばれる料理である。日本ではまずお目にかかれない、青く未熟なパパイヤの実を千切りにし、唐辛子、にんにく、プチトマト、いんげんと一緒に石臼で突き混ぜ、ライムの絞り汁、ナムプラー、ヤシ砂糖で味をつける。プララーと呼ばれる魚の塩辛を入れることもある。甘・辛・酸の微妙な調和がこの料理の味を作り上げているといってもいい。
ピーナッツと干し海老を入れればソムタム・タイ、塩漬けの沢蟹を入れればソムタム・プーとなる。パパイヤの代わりにきゅうりを使ったり、いんげんを使ったり、青く未熟なバナナを使ったりもするが、これは地方色が強過ぎるようで、バンコクの人が食べているのをあまり見たことがない。バンコクのレストランではちょっと小洒落て、にんじんを使ったり、りんごやグァバや葡萄といったフルーツで作ることもある。
ソムタムには更にキャベツやいんげん、バジルの葉といった生野菜を付け合わせて食べる。そして忘れていけないのはカーオニャオ(もち米)。イサーンの田舎に行くと、蒸かしたもち米を一口大に指先で丸め、それにソムタムをからめて口に運ぶ。フォークは使わない。手で食べる方がおいしいからだ。
しかし、タイの女性は実にこのソムタムが好きだ。好きな料理は? と訊ねると、イサーン地方出身者でなくとも「ソムタム!」と答える女性は多い。料理までには、田舎者の悲哀はついて回らないらしい。油をまったく使わないことから、ダイエット食としても好まれる。
現在は宮廷料理を出すレストランのメニューの一品にもなっているこのソムタム、バンコクで味わえるふるさとの味の一つである。
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