第62回: チュパカブラ
更新日2002/10/10
プエルトリコには世界に唯一の怪獣が棲んでいる。夜行性で神出鬼没、家畜の首に喰らい付き生き血を吸う。牛のような大型家畜から鶏まで襲われるが、とくに放し飼いにしてあるヤギが好物である。その名を「チュパカブラ」という。
チュパカブラをなんと訳せばよいのだろう。“ヤギを襲う吸血鬼”の意味だが、英訳すれば“Goat Sucker”となり、恐ろしさとヒョウキンさは伝わってこない。
チュパカブラは鳴りをひそめる期間もあり、新聞ダネが枯れたころをみはからって、人里に降りてきては、家畜を襲うのだ。姿を見た人はゴマンといるが、まだ写真に撮られたことはない。襲われ、殺された家畜の写真のみが新聞やテレビで報じられるだけだ。
とはいえ実物を見た人は大勢いて、彼らの談話によると、口が大きく裂けた白いゴリラのようだとも言うし、巨大な狼のようだとも言う。ある人は空を飛んでいるのを見たと言い、別の人は恐竜のようだったとも言う。まさに変幻自在なのだ。
カリブの島の人々は、プエルトリコに限らず、迷信深い。超自然の現象に対し畏怖の念が非常に強いのだ。プエルトリコの東にユンケという山がある。湿気をたっぷり含んだ貿易風がこの山にぶつかり、雲を呼び、雨を降らす。ユンケ山の急峻な東スロープは高温多湿を絵に描いたような熱帯雨林を作り出している。そこがUFOお好みのランディングの場所で、UFO目撃者も沢山いれば、写真にも幾度となく撮られている。
UFOの写真というのはそう言われてみればUFOに見えなくもない発光体がぼんやりと映っているのが常だ。ユンケ山がお気に入りのUFOも、写真に撮られたとたんに、小さな光のツブになってしまうようなのだ。
ユンケ山に降りてくるUFOは子供を誘拐するのが趣味で、誘拐された子供は50人を下らないと、第一面を赤文字、カラー写真で飾るタイプの新聞が書き立てている。お調子者の日本のテレビ局が取材班を送り込んできたほどなのだ。私自身幾度も、いろいろなルートでユンケ山に登ったが、歳がいきすぎていたせいか、UFOからお呼びの声はかからなかった。
最新の情報では、チュパカブラはUFOに乗ってきた、宇宙から送られた侵略者だ、言っている。ここにチュパカブラとUFOの合体が生まれたのだ。チュパカブラの目撃者の証言も一段と宇宙づいてきたのだ。例の頭でっかちの火星人を見た、ETのようだった、足がいく本もあった、などなど。
ついに、プエルトリコ大学の動物学者まで登場し、チュパカブラに襲われた動物の現場検証を始めたのだ。そして、いかにも残念なことに、結論らしきものが出てしまった。
本来この島にいなかったサルをペットとして持ち込み、それが野生化した、と言うのだ。しかしながら、こんな科学者の意見をそのまま鵜呑みにするほど、プエルトリコ人のチュパカブラ信仰は薄くはない。彼らは主張し続けるのだ、私の見たチュパカブラは怪物だった、決してサルなどではないと。
ニューヨーク界隈には200万近くのプエルトリコ人が住んでいるが、プエルトリコ人の芸術家たちがチュパカブラ展なるものを開いた。ありとあらゆるチュパカブラが登場したのだ。チュパカブラを迷信と妄想が生んだ産物と、誰が笑うことができよう。プエルトリコ人は、チュパカブラを芸術にまで昇華させたのだから。
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