第21回:泥棒がデザインする家
更新日2001/10/04
プエルトリコの住宅は他のカリブの島のそれとは一線を画している。カリブの平均的な家といえば、極めつけの掘っ立て小屋であり、ごく小型のハリケーンにでもあえば吹き飛んでしまうタイプの構築物だ。そして、再建するのに3日もあれば十分というしろものである。プエルトリコの家は違う。まず100%近い家が鉄筋コンクルートの、四角いトーチカのような造りなのだ。最大の理由はハリケーンにあり、烈風に耐えうる構造を追求した結果、窓の小さいコンクリートの家になったのだろう。これはわかる。しかし、そのわずかに開いた窓や玄関、勝手口に例外なく鉄格子がはめ込まれているのだ。テラスやポーチもしっかりと鉄格子で囲まれているし、車庫や庭も厳しい鉄柵がある。
家自体は四角四面で面白みはないが、鉄格子はそれぞれに嗜好を凝らし、アラベスクもあればシンメトリーもあり、ときには美しくさえある。しかし基本的には牢屋の鉄柵であることにかわりはない。ただし、こちらはドロボーを閉じ込めるのではなく、ドロボーの侵入を防ぐためのものだ。
プエルトリコに着いた当初、魔がさしたのか家を借りて住もうとした。新聞の借家欄を頼りに10数軒も見ただろうか。私たちの財力で借りられる家といえば、郊外の団地で並以下のクラス、それもかなり下に近いものだが、そんな家でも、家のなかに入るには最低鍵が4つ必要だった。まるで関門を通過するかのようなのである。道路から敷地(それが幅1メートルに満たない猫の額ほどの庭にせよ)、車庫またはポーチへ、そこから玄関の二重ドア(外側は鉄格子で、内側は鉄かアルミのドア)というのが一般的で、鉄格子は無骨なクサリに南京錠で武装されている。なかには各々の鉄格子にこれでもかとばかり、極太のクサリをグルリと巻き、スーパーサイズの南京錠を2つ付けている家もある。
そして家の中である。そうなのだ、なかにも鉄柵があるのである。居間から寝室への廊下や、寝室の入り口、2階への階段などに、要所要所を固め、本丸を守りぬく城砦建築のごとき発想か。頑丈な鉄格子の扉が、重そうな南京錠をぶらさげて配置されているのだ。中世の城のように、上からガチャンと鉄柵が落ちてくる家はさすがになかったが。
こう書くと、なかなか信じてもらえそうもないが、真実とは常に伝わりにくいものだと割り切って話を続けるほかない。火事になったら、すぐに逃げることができないのではないか…というのは日本人的な発想で、内側の壁も、部屋の仕切りもコンクリート剥き出し内装なので、燃えるものといえば各部屋やトイレにあるドアだけなのだ。この土地において何より恐ろしいのはハリケーンと強盗なのであって、火事や地震はこれに入らないのだ。
私自身、ドロボーには直接ご対面していないが、被害には幾度もあっている。日本風の「空き巣」のレベルとは違い、彼らはまずピストルを持っているので、彼らが家に侵入してきたら、できるだけ静かに物陰にでも隠れるか、対面を避けて我が家からすみやかに逃げるしかない。こうしてドロボーに好きなだけお持ち帰り頂くというのが、正しいドロボーの入られ方といえる。
最近ではドロボーのほうも幾重にもなった鉄格子に辟易するようになったのか、家の外で主人の帰りを待ち、ピストルを突き付け、全部の鉄柵の開けさせるケースが増えたと新聞で報じている。この新しいタイプの押し入り強盗がプエルトリコの住宅設計に影響を及ぼすのに、いったいどれくらいの年月がかかるのだろうか。
本来、住宅とは、長い歴史のなかで気候風土に合わせて作られるものだ。しかし、ドロボーや強盗のために、自分の家を牢屋にしてしまったのはプエルトリコだけではなかろうか。ドロボーが街中を自由に歩き、市民が牢屋に住んでいるという一点でも、ここはユニークな国である。
第22回:ハリケーンがやってきた〜その1