第58回: 悪役 その1
更新日2002/09/12
セーリングしている時、イルカの訪問を受けることが、ままある。 2、3頭のこともあれば、海が盛り上がるほどの大群にヨットを囲まれることもある。イルカと一緒になってのセーリングは単調なクルーズにチョットした興奮と感動を与えてくれる。どういう習性からだろう、ヨットの舳先を泳ぎ、キールに触れんばかりに船底を潜り抜け、飛び跳ね、ヨットと前後しながら踊るように小一時間もついてくることもある。
鯨を見かけるのはもっとまれだ。潮吹きを遠目にすることはあるが、鯨そのものに出会ったことは片手で数える程度だろう。もっとも、潮吹きを目にしたら、こちらは鯨から逃げるように航路を取る、
というのは鯨との衝突または、シッポでの一撃事故は数は少ないにしろあるにはあるからだ。
サメはセーリングしながら見たことがない。 ヨットの後ろから流しているルアーには鰹やシイラが掛り、それをサメに持っていかれることはあるが、姿を見せることはない。
もっとも素潜りでスペアフィッシングを始めてからは、水中で何度もご対面した。
サメのドキュメンタリーフィルムは、判で押したようにサメが餌に食らいつくさまをカメラマンが鉄のカゴの中から写し、サメの獰猛さを強調したものばかりだ。
多少のテーブルマナーの悪さは自然界では許されると思うのだが、サメの餌やりツアーまであり、フロリダやバハマの観光地で人気を博していた。が、人馴れしたサメがビーチにまで来るようになり、禁止された。
ダイビング協会では、サメの餌付けツアーでの事故は皆無だったと反論している。
昨年のジェシー事件は衝撃的なものだった。フロリダ州のペンサコラの海水浴場でジェシー(8歳)が腰の深さのところで遊んでいて、ブルシャークが肩に食いついてきたのだ。一緒に来ていた叔父さんのヴァンスは即座に海に駆け込み3メートル、110キロのサメのシッポを掴み海岸へ引き上げた。が、その途中でジェシーの腕は食い千切られてしまった。
公園課のレンジャーがピストルでサメを撃ち殺し、口を裂いてジェシーの腕を取り出し病院へ送った。障害は残るがともかく、ジェシーは自分の命と腕とを取り戻したのだ。
アメリカでサメに襲われる件数はうなぎ上りに増えているのは事実だが、海岸での遊び、サーフィン、ボディサーフ、シュノーケリングの人口が急激に増加したからで、突如サメが人間の味をしめたわけではない。
スポーツフィッシングでもサメ釣りが流行りだした。悪役を釣り上げ殺すのだ、キャッチアンドリリースなどするものか、釣り上げたサメは並んで写真を撮り、すべて殺せというわけだ。年間約100万匹が捨てられているという。
そのサメの肉も結構イケルことを見つけた大手スーパーが市場に流し、ちょっとしたグルメの材料にさえなっている。 捨てるより食べるほうがよいに決まっている。
ここで、サメをイルカに置き換えると西欧人のイルカ偏愛がよく見えるかもしれない。イルカの肉をどこかのスーパー、レストランで供したら、まず確実に自然保護団体やらこもごものグループから猛烈な非難を受け、ボイコットになるだろうし、過激な団体からは銃撃を仕掛けられかねない。
ペットをベタ可愛がりするように、自然界の動物の特定種を扱うのは非常に危険なことだ。イルカは可愛く、サメは怖い、それとて、人間外の動物なのだ。
万が一、洋上で飢えることがあったら、可愛らしく近寄ってきたイルカを撃ち殺し、食べるであろうと、私が言うと、西欧人のヨット乗りたちの目に軽蔑の光りが走るのだ。
第59回:
悪役 その2