第46回:ワイルド・ウエスト
更新日2002/06/20
プエルトリコに住んでいると、他ではお目にかかれない光景を目にし、時代離れした事件を耳にすることがある。
プエルトリコでは、田舎と都会の区別は線を引いたように明確ではない。サンホアンは大都会だが、その中心部にある緑に埋もれたような高級住宅地・ドスピノスに、馬が草を食み、鶏がヒヨコを従え行進している、野良犬がいたるところにいる。街道にひき殺されたイグアナ、犬、猫、はねられた牛、馬、羊が、炎天下で腹を膨らませ、悪臭を放ちながら、何日も転がっている。
アメリカ本土から訪れた連れ合いの友達が、半身毛の抜けたボロボロの野良犬集団を見て、可愛そうと涙した。それに対して、「オレが犬なら、ペットとして家の中で飼われるより、野良犬になりたい。ペットとして、リボンなぞつけられたら恥ずかしくて自殺する」と述べたら、しばらく口を利いてもらえなかった。その時は、彼女がリボンをつけたチンチクリンな犬を自宅で飼っているとは知らなかったのだが…。
ここでは、人間と動物が渾然と共存しているのだ。私の住んでいる島へ渡るフェリーの発着所のある村はプエルト・レアル(仰々しくもローヤル・ポート、すなわち王室の港と名付けられている)と言うが、人口何百人足らずのこの村に出入りする一本道は、朝夕交通渋滞が起こるようになった。車を持たない家、成人はいないかのように、誰しも車を持っているのだろう。
そんな渋滞をあざ笑うかのように、悠然と馬に乗っている者がかなりの数に及ぶのだ。パソフィノと呼ばれる小型のアラブ系の馬で一見貧相だが、粗食に耐え、暑さに強く、丈夫だけがとり得の種だ。コンキスタドール華やかし頃、スペインから連れて来られ、数百年の間にこの地に適応したものだろう。持ち主はいるのだが、ノラ馬よろしく道端の草や野球グランドの外野の芝を食んでいる。
プエルトリコ東部の最大の街、ウマカオへはプエルト・レアルから30キロほどの素晴らしい高速道路が走っている。もちろん親方アメリカの援助で建設されたものだ。その高速道路の料金徴収所は乾いた小高い丘の間にある。そこを馬に乗った盗賊団がピストルと蛮刀を手に襲ったのだ。被害総額276ドル。盗賊団は山から馬で降りてきて、パトカーも白バイも追跡できず、山に消えた。馬賊は味を占めたのか、再三料金所を襲うようになった。
そこで、徴収人に化けたお巡りさんが待ち構え、ライフルで盗賊の馬を撃った。馬は死に、盗賊は仲間の馬に二人乗りして逃げおおせた。以後馬賊はなりを潜めているが、動物愛護団体が馬に罪はない、馬を撃つのは卑怯者のすることだとマスコミを煽り立て、強盗はさておき、馬が話題の主役になったのだ。泥棒、強盗は茶飯事だが、馬を殺すのはごく珍しい事件というわけだ。
プエルト・レアルの村では悪餓鬼どもが、パソフィノの裸馬に乗ってビーチを駆けさせているのは、なかなかいい光景ではある。
第47回:静けさを破るもの