第42回:不法外人と不良内人
更新日2002/05/23
ここ数年来、ヨッティーに新しい波が押し寄せている。カリブをクルージングしているヨッティーに、旧共産圏の人々が加わり始めたのだ。もともとポーランド人、ユーゴ人はいた。そこへ、ロシア、ウクライナ、ブルガリア、チェコ、ハンガリー、ルーマニアが加わり、もう珍しい存在でなくなりつつある。
彼らは一様に、手造り風の、一見無骨な、しかし外洋に耐えうる丈夫一点張りのヨットに乗り、シーマンシップ(ヨット、海の知識)は非常に高い。ありとあらゆる電子航海計器を積み込んだマッサラなチャーターヨットに乗った未経験なヨット乗りとは対照をなす。
彼らは貧しく、ヨットに明るいので、ほかのヨットでの手間仕事で賃金を稼ぐのに事欠かない。真面目につらい仕事もよくこなすという評判が定着しているのだ。付け加えて、彼らの100%と言ってよいと思うが、アメリカの労働許可証を取って、永住しようとしている。
我がマリーナにもロシア人、ウクライナ人2人、それにブルガリア人夫妻がそれぞれのヨットでやってきた。ロシア人のオレックは28歳、野心家の働き者で、すぐに建設関係の仕事を見つけ、現場助監督ほどの地位となり、大型のアメ車を買い、故郷に残してきた奥さんをもうすぐこちらに呼べるところまで漕ぎ付けた。
ブルガリア人夫妻も、電気関係の仕事にすばやくついた。ウクライナ人のボリスは海と自分のヨットから離れられず、マリーナで雑用や大型パワーボートのメインテナンスしているが、明るい性格と深い経験に裏打ちされた仕事ぶりで、皆に好かれ、今やマリーナのマスコット的存在になっている。彼がここに定着してから丸2年なるが、もちろん誰も労働許可証は言うに及ばず、観光ビザの3ヶ月は遠の昔に切れ、不法滞在をしているのだ。
プエルトリコ人に限ったことではないが、一般にラテンの人々は個々の人間を見て、集団として人を見ることが少ない。ここのマリーナに住む人、働いている人全員彼らが不法に滞在し、不法に働いていることを知ってはいるが、ボリスはとてもいい人だ、オレックは働き者だという側面を第一に見るのだ。よって、官憲に彼らを訴えるような人は誰も居ない。
マリーナにはお巡りさんも、税関の役人も居るし、当然ボリス、オレック、ブルガイア人の内情を知っているが、余計な仕事を自分でつくるような不粋なことはしないのだ。対岸の船着場にあるジミーのレストランで、ボリスたちは税関の役人と同じテーブルで和やかに昼食を取っている光景が今日も見られるのだ。
そこへユージーンがやってきた。ユージーンはヴァージニア州生まれの40歳前後の白人だ。アメリカ人には珍しく貧乏ヨット乗りなので、ボリスと一緒にチームを組んで、マリーナで働き出した。炎天下であろうが、汚い仕事だろうが実にタフな働きぶりを見せた。が大口を叩くのと、3日に一度の割合で酔いつぶれるのが欠点だといえば、言えた。
酔いと大口叩きが同時進行した時、ヨットやボートの持ち主と仕事のこと、支払いのことで、大声でやり合うのを何度か耳にした。ここの人々は、仕事をボリスに直接頼むようになり、ユージーンをのけ者にし出したのだ。
ボリスにはあれだけ寛大なここの人が、誰であるかは分るはずもないが、ユージーンはドラッグをやっていると警察にたれ込み、ユージーンのドミニカ人ガールフレンドは違法に入国しているとその筋に通報し、しまいには連れている犬まで検疫を通っていないとやりだしたのだ。
合法滞在なのは自国だから当り前だが、合法内人のユージーンは去り、不法外人のボリスは毎日元気に働いている。
第43回:ヴィクトールのこと