■貿易風の吹く島から〜カリブ海のヨットマンからの電子メール

佐野草介
(さの・そうすけ)


道産子。小学生の時、フランス人4人がヨットで世界1周する記録映画を見て、人生の針路を決定する。水上生活者として20余年。前半は地中海、後半はおもに大西洋とカリブ海で暮らす。現在はカリブの砂州、カージョ・オビスボにヨットを舫い棲家とする。



第89回:無国籍化と国際化 その1
第88回:遠き日本 その2
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第65回:イスレタ島人物伝 その3 〜フェリーキャプテンたち
第64回: イスレタ島人物伝 その2 〜ポリート
第63回: イスレタ島人物伝 その1
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Caribbean Sea Map


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■更新予定日:毎週木曜日

第90回:無国籍化と国際化 その2

更新日2003/05/08


日本が参加しなかったので、あまり注目を集めなかったようだが、ヨット界最大のイベント『アメリカズカップ』がやっと終わった。

スイスが初めての挑戦で5ヵ月に渡るレースを勝ち抜き、決勝でもニュージーランドに5戦ストレート勝ちし、アメリカズカップを152年ぶりにヨーロッパへ持ち帰った。

このレース艇は複雑な計算式に則ってデザインされ、建造され、およそ全長72〜73フィートの最先端の技術を集めたヨットに仕上げられる。このアメリカズカップ艇は、このレース以外に使いようがないのが特徴だ。ブイを回る2、3時間のオリンピックスタイルのレースにも、外洋のレースにも使えないし、週末にちょっとクルージングを楽しむこともできない造りなのだ。

大洋を渡るには20フィート以下の小さなヨットでも十分だが、アメリカズカップのヨットではほんの小さなシケで沈むだろうし、マストやブームなどのリグ(帆装)がもたないだろう。

私もテレビにかじり付いてレースを見た一人だが、第4戦までレースで中止や延期が6回あったのには、ホトホト疲れた。例えるとワールドカップサッカーの最終戦を観戦にきた何万人かのスペクテイターをスタジアムに集めておき、3時間待たせ、今日は天候不順のため中止しますと言うのと同じだ。それを6回、風が強すぎるから、風が弱すぎるから、風がシフト(方向が変わる)しすぎるからと、中止、延期を繰り返したのだ。テレビ局もスポンサーもさぞ困り果てたことだろう。

スイスのチームは、確かにオーナー、Ernest Bertarelli はバイオテックの会社を持つスイス人であり、船が建造されたのもスイスだ。しかし、他はすべてと言っていいほど外国人だらけだ。あまり重要でないポストにちらほらスイス人がいるだけなのだ。

ヨットデザインチームは7ヵ国のプロが関わり、チーフはオランダ人、そして実際にレースをするクルーも主要メンバー7人のニュージーランド人ほか10ヵ国に及んだ。

Bertarelli は3年前、前回のアメリカズカップが始まる前から、明確な構想を持っていたようだ。各々の分野でベストの人物をリクルートしたのだ。前回のアメリカズカップはニュージーランドが勝ったが、その最終戦を待たずに、ニュージーランドチームからキーマンである、スッキッパーのRussell Coutttsとタクティシャン、ナビゲーターのBrad Butterworthを引き抜き、プロジェクトチームを稼動させたのだ。

現在のカップ規定では、船籍の国に1年以上滞在するとクルーとしてその国から参加できる。Bertarelli はメンバーの選択に国籍の如何を全く考慮しなかったようだ。できあがったチームはアメリカ2人、カナダ2人、ニュージーランド7人、オーストラリア2人、フランス3人、南アフリカ、ドイツ、イタリア、デンマークはそれぞれ一人づつ、オランダ2人、スイス7人の構成になった。

このメンバーの経歴たるやオリンピックのメダリスト、世界選手権メダリスト、世界一周レースの優勝艇、そしてアメリカズカップ数回の経験者ばかりだ。このチーム全員が所有するメダルは何十個になることだろう。もしこれがフィギュアスケートの世界なら、「ホリデイ・オン・アイス」のようなショーを豪華メンバーで興行できるところだ。

私はこのメンバーの幾人かを知っているが、彼らの能力の高さは舌を巻くほどだ。全員どの持ち場でも、楽にこなすだろうし、誰が舵を取ってもトップクラスの走らせ方をするだろう。加えて全員、ヨット全体の構造、建造に関する知識の裏打ちがあり、一人ひとりがヨットを設計し、自分でヨットを造り上げ、マストを立て、セールを縫う能力を持っているのだ。

結果、ヨットレースに興味のある人なら誰でも予想した通り、スイスチームは危なげなく勝ち進み、イギリス、フランス、イタリア、スペインが何度となく試み、ことごとく失敗してきたアメリカズカップを初めての挑戦でヨーロッパに持ち帰ったのだ。

アメリカズカップレースはカップ保持国、ヨットクラブにレースの詳細規定が委ねられる。Bertarelli は、カップレースのあり方を今まで誰もなし得なかった方向へ変えようとしている。

まず風の強さ如何でレースを延期したり、中止したりしない。コースを短く、かつブイを多くすることで、アクションを高める。5ヵ月に渡るレースを2ヵ月ほどに縮める。そしてクルーの国籍の規定を全くなくする。ただヨットだけは、その当事国で建造しなければならいなどの改革を目論んでいるのだ。

オリンピックのアマチュアリズムが形骸化したように、スポーツにおけるナショナリズムも同じ道をたどりつつある。チームスポーツであるヨットレースで、各選手が自分の能力を最も発揮できるチーム、国のもとで参加できるのだ。それはスポーツの盛況につながるものと信じている。

 

 

第91回:ヴィエキス島 その1

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