第33回:持てる者と持たざる者
更新日2002/03/21
ドミニカ共和国からボロな木造オープンボートで密入国をもくろみ、プエルトリコの西、マヤグエス近くで転覆。沿岸警備隊に18人が救助され、27人が行方不明になった。隣のドミニカ島とは80マイルのモナ海峡で隔てられている。この海峡を渡って一旦プエルトリコに入ってしまえば、同じスペイン語圏ではあるしアメリカ本土へ飛ぶのにイミグレーションも税関もないので、もう安心なのである。しかしレーダー網をかいくぐり、潮と風に逆らって80マイルのモナ海峡を渡り、無事にプエルトリコにたどり着ける確率は低い。年に何百もの人がモナ海峡で死んでいることだろう。それでも打ち返す波のように毎週、ドミニカ人が渡って来る。プエルトリコに住んでいるドミニカ人は40万、そのうち15万が不法滞在、つまりモグリだと推定されている。ドミニカ人はプエルトリコで、建築や土木工事など、最下層の仕事に就いている者が多い。アメリカ本土で蔑まれているプエルトリコ人が自分より下の階級を持ったのだ。
プエルトリコのヨットハーバーには、我々のようにヨットを住居としている、生活感の漂う船は非常に少ない。70〜80パーセントはスポーツフィッシャーマンタイプと呼ばれるハイスピードのモーターボートだ。40フィートクラスで6、7千万円、50フィートだと容易に1億を越すが、そんなボートが目白押しに並んでいるのだ。アメリカやヨーロッパにも高級なマリーナはあるが、中級、下級のマリーナもあり、船のサイズもそれなりに、ツツマシク小粒になっていく。しかしここでは、中級、下級のヨット、ボートは許されないかのごとく、豪華高級を競っている。プエルトリコは非常にお金持ちだと、マリ−ナだけ見た人は思うことだろう。もうひとつ、プエルトリコのヨットハーバーを特徴づけているのは、40フィートクラスのボートにでさえメインテナンスの常駐クルーがいることである。50フィートクラスならフルタイムのクルーかキャプテンを必ず雇っているのだ。
その豪華なヨットボートの持ち主にはキューバ人が多い。プエルトリコ人に言わせれば、キューバ人だらけなのである。プエルトリコに住むキューバ人はカストロ革命の時に亡命してきた人たちで、バチスタ政権の元で多かれ少なかれ財をなし、主にその財を守るため人民革命を逃れてプエルトリコに来た人たちである。従って、ある程度の資本を持って渡ってきた者が多かった上、キューバで企業家として仕事のノウハウを既につかんでやってきた。お金の無い亡命キューバ人ももちろんたくさんいたに違いないが、一般に勤勉でそれなりの成功をおさめた者が多い。分野も広く、レストランのチェーン、宝石商、海運業から建設業、大学の教授にまで及ぶ。プエルトリコ人はそんなキューバ人を、羨望と軽蔑の入り混じった感情をもって「カリブのユダヤ人」と呼ぶ。
成功したキューバ人は、田舎に別荘を持つより、ヨットやボートを持ちたがる傾向がある。そんなキューバ人のヨット、ボートのハルを磨き上げ、船内の掃除をするのがドミニカ人、という図式が出来上がる。遅れて来た両極端の移民は、あるひとつのことで奇妙な意見の一致をみるのだ。「プエルトリコにプエルトリコ人が居なければ、パラダイスだ!」と。
第34回:ジム